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総論
近年,高齢化社会の到来に加えて,生活様式の欧米化により生活習慣病が増加している.それに伴い動脈硬化性疾患が増え,日常臨床において虚血性心疾患とともに末梢動脈疾患(peripheral artery disease;PAD)に遭遇する機会も増えている.下肢の症状は虚血の程度によって規定され,典型的な症状として間歇性跛行がある.さらに虚血が進行して重篤化すると,重症下肢虚血(critical limb ischemia;CLI)へと至り,安静時疼痛・潰瘍・壊疽などがみられるようになる.重症下肢虚血患者の1年後の死亡率は25%,大切断率は30%とされ,一部の悪性腫瘍よりも予後不良である.PADの治療は運動療法,薬物療法,血管内治療,バイパス手術といった多様なアプローチが必要である.そのなかでも血管内治療は,デバイスの進歩とともにその果たす役割がますます大きくなっている.ここでは血管内治療の役割を中心に,PADの治療について述べることとする.
PADの治療は原則として症状を有する患者に対してのみ行われる.間歇性跛行の場合には,QOL改善が目的であり,運動療法や薬物療法で症状改善が認められれば,血行再建術の適応はない.一方で,重症下肢虚血は重症虚血により,安静時疼痛,潰瘍・壊疽などの皮膚病変を呈した状態であり,救肢のためには血行再建術は必須である.血行再建術に関しては,外科的バイパス手術と血管内治療があり,従来は外科的バイパス手術が標準的であったが,近年はデバイスの進歩もあり血管内治療が広く行われるようになっている.鼠径靭帯以下の動脈病変による重症下肢虚血患者に対する外科的バイパス手術と血管内治療を比較した試験として,2005年に発表されたBASIL trialがあり,現在でもこの2者を比較した唯一の前向き無作為化試験である.これによると,2年までは全体の生存率,大切断を回避した生存率において両者に差がないとの結果であった.これを受けて,2007年に発表されたTASCⅡでは血管内治療の適応が大幅に拡大され,鼠径靭帯以下の動脈病変に対しても積極的に血管内治療が施行されるようになってきた.一方で,BASIL trialでは同時に,自家静脈をグラフトとして用いたバイパス手術に関して,2年以後の成績において血管内治療よりも予後改善が認められたとしており,2年以上の生命予後が望まれる症例においては,バイパス手術が第一選択として検討することが望ましいとされる.しかし,BASIL trialの登録症例は1999~2004年であり,血管内治療といってもバルーン拡張のみであり,また下腿動脈の血行再建術が約30%にしか施行されていない,といった現在の治療状況とは異なる部分も多く含まれている.実臨床においては患者および患肢背景を考慮したうえで,最善と思われる血行再建術を選択することが肝要と思われる.
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