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はじめに
胸膜中皮腫は胸腔内面を単層に覆う壁側胸膜の中皮細胞に初発する難治性悪性腫瘍である.胸膜以外に,腹膜,心膜,および極めて稀に腹膜鞘状突起の遺残である精巣鞘膜にも発生する.本邦での頻度は胸膜(85.5%),腹膜(13.2%),心膜(0.8%),精巣鞘膜(0.5%)であり1),圧倒的に胸膜発生が多い.例外なく致死的な経過を辿ることから,悪性を冠して悪性胸膜中皮腫(malignant pleural mesothelioma)ということが多い.
孤在性胸膜線維性腫瘍(solitary fibrous tumor of the pleura;SFT)は,かつて良性限局型胸膜中皮腫(benign localized pleural mesothelioma)または良性線維性胸膜中皮腫(benign fibrous pleural mesothelioma)と呼んできた.これはSFTが中皮細胞由来と考えられてきたからである.SFTは免疫染色性から中皮細胞由来ではなく,中皮下層の間葉系細胞の由来であることが明らかになり,名称を変えている.胸膜中皮腫と言えば胸膜中皮細胞に発生する悪性の病態を指す.
中皮腫の発生とアスベスト(石綿)曝露が密接に関連することは明らかである.中皮腫は極めて低濃度の曝露で発生する場合がある一方で,高濃度曝露を受けた群での発生が10~20%であり,80%近くには発生がみられないとの報告がある2).また,家系内発生が認められることより,アスベストの感受性を規定する遺伝的素因の存在が示唆されている.最近,BAP1(BRCA-1 associated protein-1)遺伝子に変異があると中皮腫のリスクが高まることが示されている3).
アスベスト使用は全面的に禁止されているが,近年,産業応用に期待が持たれているカーボンナノチューブは,アスベスト同様に中皮腫を発生することが実験的に示されている4).アスベストがヒトを発癌させるには40年の潜伏期間が必要であり,アスベストと同様の形態を持つナノチューブの安全性には今後注意が必要である.
最近,胸膜中皮腫の治療戦略に新たな方向性が見られる.外科治療では,従来の胸膜肺全摘術(extrapleural pneumonectomy;EPP)から肺を温存する胸膜切除・肺剥皮術(pleurectomy/decortication;P/D)に目が向けられ,侵襲的な拡大手術であるEPPから縮小手術であるP/Dの方向に,“EPP対P/D”の議論が行われている.また,放射線治療は,2010年のEuropean Respiratory Society(ERS)とEuropean Society of Thoracic Surgeons(ESTS)のガイドラインでは,肺を温存した状態での根治照射は禁忌であったが5),強度変調放射線治療(intensity-modulated radiotherapy;IMRT)を用いると,患側肺を温存した状態でも根治照射が可能であることが示されている6).化学療法は標準的な一次治療法であるシスプラチン(CDDP)+ペメトレキセド(PEM)併用療法が普及した現在,再燃例・無効例に対する二次治療法が大きな課題となっている.
本稿では胸膜中皮腫に関する最新の知見を概説する.
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