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はじめに
急性感染症や傷害に伴う免疫反応の活性化が代謝系に影響を及ぼすことは古くから認識されていた現象である1).にもかかわらず,心血管病の発症,進展における免疫機構については,広く内分泌代謝領域全般を俯瞰してみると,明らかなエビデンスに裏打ちされて確立されたメカニズムはほとんど存在しないと言っても過言ではない.わずかに,糖尿病による心血管病の進展に伴う複雑な病態の一部に,今後解明されてゆくかもしれない注目すべき領域があるにすぎない.
糖尿病が治療法に迷う難解な疾患になることは,かつては予想もされていなかった.糖尿病は古代エジプトの医学書に記載があるほど,古くから存在していたとされるが,1921年にバンティングとベストがインスリンの抽出に成功するまでは,奏功する治療法もなく漫然と食事療法を行い,死を迎えるという文字通り不治の病であった.しかし,約90年経過した現在,選択が困難なほど多岐にわたる経口血糖降下薬,多様な作用機序をもつインスリン製剤,新しい治療法の概念を開拓したインクレチン関連薬など,毎年数々の治療薬が新しく誕生しており,約10年前と比較しても治療薬の多さに圧倒される状況になった.インスリン分泌の絶対的不足による1型糖尿病や,インスリン分泌能が枯渇した2型糖尿病においても,数種類の作用の異なるインスリン製剤を自在に使い分け,変動の少ない血糖コントロールを行う患者も存在する.当然,糖尿病患者の長期予後が改善を示すにつれて,心血管合併症の発症・進展の抑制が問題となっていることは言うまでもない.
最近の糖尿病治療の動向は,高い血糖値をただコントロールすれば良いだけではなく,早期からの発症・進展を如何に抑制するかという問題に加えて,低血糖や血糖変動などの要因が,心血管病を含む様々な合併症の発症・進展にどのような影響を及ぼすかといった話題について盛んに議論されている.そこで,本稿では糖尿病による心血管病の進展に関する動向を俯瞰し,そのなかで,免疫・内分泌機構の相互作用が明らかにされつつある領域を取り出して,最近のトピックスについて概説する.
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