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はじめに
在宅酸素療法(home oxygen therapy;HOT)は酸素濃縮器の普及とともに1985年に健康保険の適用となり,慢性低酸素状態のため入院を余儀なくされていた患者に在宅医療の手段を与えている.HOTは生存率の改善,生活の質(quality of life;QOL)の向上,入院回数の減少など多くの有用性が報告されている1).慢性呼吸器疾患による慢性呼吸不全だけでなく,肺高血圧症,チアノーゼ型先天性心疾患,チェーン・ストークス呼吸を合併した慢性心不全にも適応がある.HOTを受けている患者の約95%は,在宅の酸素供給源として酸素濃縮器を使用している2).医師は,安静時,労作時,歩行時,就寝時などに分けて適切な酸素流量を処方する.
現在,約15万人がHOTで長期酸素療法を受けているが2),いくつかの臨床的問題点が指摘されてきた.すなわち,1)患者が在宅で酸素吸入を適切にしているか,あるいは逆に,2)処方酸素流量が不適切で設定流量を守ったため低酸素状態になっている可能性などを確認する方法に乏しかった.また,広く普及している吸着式酸素濃縮器は,圧力を加えると窒素を吸着する性質のゼオライトを用いて空気中の窒素を分離し酸素富化ガスを得るが,窒素を吸着する際に空気中の水蒸気も除去するため酸素ガスは乾燥している.室内の湿度が十分に保たれていれば鼻カニュラで3l/分~5l/分以下の酸素流量の酸素ガスは,あえて加湿しなくて良いとされるため1,3,4),HOTで酸素流量が3l/分以下の患者に酸素ガスを加湿しないことが多くなり鼻腔乾燥感を訴える患者群を認めるようになった.
これらの問題点を解決するため,患者宅の酸素濃縮器使用状況を情報通信技術(information and communication technology;ICT)で監視するシステムやパルスオキシメータに患者の生体情報と酸素濃縮器の使用情報を記録させ簡便に医療スタッフが確認できるシステムが開発された.新しいシステムは特定企業の酸素濃縮器に付加されている.さらに,QOLの向上のため加湿水の不要な加湿器(膜式加湿器)を組み込んだ酸素濃縮器も使用されている.本稿では,HOTに使用される酸素濃縮器に付加された新技術を解説する.また,東日本大震災で課題となった災害に対応する取り組みに関しても概説する.
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