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本態性高血圧の遺伝子診断をめぐる最近1年間の全般的な話題
本態性高血圧症は,本邦の成人の約4,000万人が罹患し,致死的・非致死的心血管イベントをもたらし,寿命を決定する重要な疾患である.降圧薬の普及により,脳出血の劇的な減少を認めるなど治療面での成果は著しいが,本態性高血圧症の成因は依然として不明である.Human Genome Projectをはじめとする,分子生物学的テクノロジーの進歩により,全ゲノム配列の解析が高効率に,より正確に行われることが可能になった.その結果,多数のSNP(single nucleotide polymorphism)の同定が可能になった.本稿では,ゲノム解析の技術的な面には言及せず,こうした技術を応用した本態性高血圧症の遺伝子診断へ迫る研究成果と,その限界についてまとめたい.
本態性高血圧症の遺伝子診断の試みは,Human Genome Projectとほぼ並行するように始められた.その嚆矢となった研究は,1992年にまで遡ることができる.Human Genome Projectが終了し,ヒトゲノム塩基配列が明らかになることで,多くの遺伝性疾患の遺伝的成因が解決することが期待されたが,必ずしも期待どおりにはいっていない.なかでも,本態性高血圧症の遺伝子診断は,「遺伝学者の悪夢」と称されるように,極めて難解とされている.従来より,高度かつ大量のSNP判定技術を応用したGWAS(genome wide association study)が,本態性高血圧症の遺伝子解析を目的にして全世界的に行われている.その成果は,2007年1)から,およそ2年おきに大規模なGWASの結果として発表されている2~7).初期のGWASは,遺伝子を特定するまでには至らなかったが,本邦を含めた多国籍ConsortiumからなるGWAS共同研究が,およそ30万人にのぼるデータを集積したメタ解析として2011年8)に発表された.本年度は,そのほかにも,本邦を中心とする東アジア地域のコホート由来のGWASのメタ解析の結果が発表されている9).このように究極のGWASと言われる全世界的共同研究の結果が公表されたが,個々の遺伝子については,ある遺伝子は既報の他の研究結果に一致するものもあれば,まったく独自に,再現性なく高血圧症と関連するものもあり,ある場合には遺伝子の存在しない部位のSNPが高い統計的確率を示す場合も認められ,こうしたGWASの結果は,下記に述べるように,必ずしもfinal solutionとして受け入れられる結果とはいえない.
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