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はじめに
急性冠症候群,特に急性心筋梗塞の治療において,発症早期に冠動脈の再灌流を得ることが重要戦略である.血栓溶解療法の出現,経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention;PCI)による再灌流療法により,閉塞ないし閉塞に近い状態である冠動脈のflowを回復することができ,梗塞心筋の縮小効果や,左室リモデリングを抑制し,結果として長期的な予後改善効果が得られるようになった.特に本邦では,他国と医療状況が異なり,極めて高率にPCIが行われている.
しかしながら,再灌流療法により,虚血心筋に血流を再開することが新たな心筋障害を生じさせるということが問題となっている.この現象を再灌流障害と呼んでいる.その分類として,1)no-reflow phenomenon:no-reflow現象(血管内皮などの障害による血管性障害),2)reperfusion arrhythmia:再灌流性不整脈,3)lethal reperfusion injury:致死的心筋障害(不可逆的細胞障害),4)myocardial stunning:心筋スタンニング(虚血解除後に生存心筋で認められる機能低下:気絶心筋ともいわれる)1)がある.原因として,虚血により障害を受けた細胞の透過性亢進,スパスムなどの微小循環障害,虚血心筋内Ca2++overload説,フリーラジカルによる血管内皮障害,血栓形成,アポトーシス誘導などが考えられている.再灌流障害は,心筋梗塞の梗塞サイズ拡大,梗塞後心不全と関連することが知られている(図1).つまり再灌流障害は,PCIなどによる再灌流療法のメリットを減弱させてしまうものであり,その対策を講じることは極めて重要なポイントとなる.
実際に再灌流障害が生じたかどうかに関して,no-reflow現象は,PCIの治療中やその直後に評価しやすい.評価項目としては,血管造影で確認できるTIMI flow grade,さらにそれを定量化したTIMI frame count,造影剤による心筋染影度をみるmyocardial blush grade,心電図によるST上昇が改善したかを判断するST resolutionなどがよく使われる手法であるが,コントラストエコーを使って,より鋭敏でセグメントを評価できる手法もある.再灌流性不整脈に関しては,心電図によるモニターで評価し,致死的心筋障害,心筋スタンニングに対してはアイソトープなど核医学検査法や,薬物負荷エコーなどにより評価される.
PCIに伴って行われる血栓吸引や,intra-aortic balloon pumpingといった処置も再灌流障害に対して行われる処置であるが,薬物を追加することにより再灌流障害を予防する試みが広く行われている.特に虚血プレコンディショニング,ポストコンディショニングのメカニズムを応用することが注目されている.
虚血プレコンディショニングとは,本格的な虚血に先行して起きる短時間の虚血が梗塞による心筋のダメージを軽減するという知見であり,臨床の場でも,梗塞前狭心症のある患者はなかった患者と比較して予後が良いことが広く知られている(図2)2).一方,ポストコンディショニングは,心筋梗塞後灌流直後に虚血と再灌流が短時間に複数回繰り返されることにより,梗塞範囲の縮小効果など再灌流障害による心筋ダメージが軽減する現象のことを言い,こちらも臨床的に有用なものであることが知られている(図3)3,4).こういった機序を機械的また薬剤的に刺激し,治療法に生かそうとする研究が盛んに行われている.
本稿では主に,PCIによる再灌流療法に追加することにより,心筋梗塞後の予後を改善する可能性のある薬物療法に焦点を当てることとする.
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