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結核はなぜなくならないのか? それどころではない! 結核は過去の疾患ではなく,わが国にとってはいまだに大きな問題を孕む感染症である.年間2万数千人が新しく結核を発症して2,000人前後が死亡しているのである.近年,結核罹患率(=新規患者の年間発生率,人口10万対)はようやく20を割ったが,これは先進国の北欧諸国や米国の5倍前後と高い.すなわち,わが国は決して結核対策の先進国ではなく,東欧圏などと同じレベルの中蔓延国なのである.疫学的背景としては,わが国の人口構成で高齢者が急増していることの影響が大きい.過去の高蔓延時,若い頃に感染して発病せずにいたが病巣を抱えている潜在性結核が高齢者に多く存在し,そこから多数の発症が起こるとともに,結核免疫の脆弱な若年層がそれをもらって集団感染を起こすという構図が最近顕著になっているのである.若手医療者もまったく同様であり,診断のつかないまま一般医療施設を受診する結核菌排菌患者に遭遇する機会が増えている現在,若年看護師を中心とする職業感染としての結核集団発生も多い.結核は感染・発症するとその人にとっては一生続く一大事となるのであり,一般の医療職もここでもう一度「結核」を学んで対応策をしっかり考えたい.
本書はそのような要望に応えるのに最も良い解説書である.本書の第1版は2001年に出版された.わが国の結核が再増加に転じて1999年に結核緊急事態宣言が当時の厚生省から出され,同じころに明治時代から続いてきた伝染病予防法が抜本的改正を受けて感染症法に衣替えされた直後であり,時代の変化をとらえたタイムリーな企画であった.内容も分かりやすく,結核の早期発見と効果的な治療および時代に対応した結核院内感染対策の構築をめざすために結核の何を学ぶのか?という視点が確立されていて,一般臨床医のみならず看護師・保健師などのコメディカルにも好評を得た.2005年の改訂版は,この年の50年ぶりの結核予防法の改正を受け,結核感染のハイリスク集団が明確となってきた状況に対応してより効率的な結核対策を構築する目的があった.しかるに,2007年に結核予防法が感染症法に統合されたことを受け,本書はさらに改訂を加えてこのほど出版された.すなわち,感染症法の内容に沿いながら潜在性結核の早期発見と治療の重要性,健診制度,必要な検査・治療,入退院基準などが解説されている.新たな知識としては従来のツベルクリン反応検査に代わるインターフェロンγ法の詳述,新たに複数の保険適用治療薬が承認された類縁疾患である非結核性抗酸菌症の解説などが述べられるとともに,コラム欄ではさらに深い内容を知ることができる構成となっており,現場の医療者に薦めたい良き一冊である.
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