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はじめに
バイオマーカーとは,尿や血液中に含まれる生体由来の物質で,生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標となるものを指す.例えば,腎障害の指標となる尿中アルブミンや,肝障害の指標となる血清中のGPT,GOTなどは非常によく知られたバイオマーカーであろう.それでは呼吸器疾患診療のなかで用いられるバイオマーカーにはどのようなものがあるのか.肺癌診療のなかで用いられる各種の腫瘍マーカーは最も測定頻度の高いものであろうが,本邦においては,間質性肺炎の存在の指標となるKL-6,サーファクタント蛋白(SP)-A,SP-Dも頻用されているバイオマーカーであるといえよう.また最近では,呼気凝集液や呼気ガス中のバイオマーカー測定が試みられ,実際に気道の炎症を反映するとされるものもいくつか報告されている.これらのアプローチは,呼吸器疾患,特に気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患に特異的なもので,高い注目を集めているが,特殊な装置を必要とし,血液や尿を用いて行う一般的なバイオマーカー測定とは一線を画するものである.その他,Dダイマーが肺血栓塞栓症の診断の一助として用いられており,また,敗血症の際に血清中に上昇するプロカルシトニンも肺炎の重症度判定に有用であると報告されており,これらも呼吸器疾患に関連するバイオマーカーとして一応は認知しておいてよいであろう.
呼吸器疾患の診断,病勢・臨床経過の評価には,画像,生検組織,さらには呼吸機能検査などを組み合わせて行うことが一般的ではあるが,被曝や侵襲性,そして再現性の問題を抱えていることは疑いのないところである.また,その解釈にも専門的な知識を要する傾向が強いのも事実であろう.一方,末梢血中に存在するバイオマーカーの測定は,採血を行うのみで結果を簡便に得ることができ,何度も実施が可能であり,しかもその結果が数値という客観的なデジタルデータとして表されるという点において,非常に理解しやすい情報が提供される.専門医のみならず,一般臨床医にとっても利用しやすい検査項目であるといえるが,その厳密な解釈には,やはり,それぞれのバイオマーカーについてのきっちりとした知識が要求される.
本稿では,呼吸器疾患のバイオマーカーのなかでも,肺癌診療に用いられる腫瘍マーカーと間質性肺炎の血清マーカーについて紹介し,それらの臨床的な意義について解説する.
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