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はじめに
世界最古の心肺蘇生の記述は旧約聖書の列王紀下4に書かれている1).以来,レオナルド・ダ・ヴィンチの詳細な解剖学から500年,ウィリアム・ハーベイの血液循環説から350年,アレキシス・カレルの血管吻合法から100年,今日の人工心肺の基礎となったカレル・リンドバーグポンプから60年ほどの時間が経過した.人類は重症臓器不全の病者を救命することについて何の迷いも持ち合わせていなかったといえよう.しかし,ギリシア神話に登場するキメラやケンタウロスが示すように,より強い身体を望み,あるいは別個体の臓器組織を借りても強くありたいという願望は人類の深部に存在し続けてきたであろう.
近代的な臓器移植学はアレキシス・カレル2)が三点支持血管吻合法を案出し,彼自身様々な臓器移植を行ったことに始まっている.ランゲルハンス島移植などを除き,ほとんどの臓器移植の外科手技が血管吻合によるからである.しかし,ヒトからヒトへの同種移植を一つ取り上げても,そこには気の遠くなるような様々な問題が介在している.提供者と受容者の二人の精神と肉体が関係すること,両者が地理的かつ時間的に至近距離にいなければならないこと,両者を結びつけるために情報,通信,搬送などの社会システムが有効に働くこと,提供者の脳死判定の基準の差異,そして術後の生涯にわたり存続する移植臓器の抗原性をいかに制御して行くかという最大の課題がある.したがって,移植医療とは,総合的社会政策のもとで行われる医療行為の一つであり,移植外科手技はそのなかのほんの10%程度にしか過ぎないという見方もできよう.それゆえに本邦では移植先進国に比べ数十年の後れを取り,しかも臓器移植法がスタートした1997年10月以来,10年を過ぎ,移植禁止法ともいえる厳しい制御のもと,脳死臓器移植は遅々として進んでいない.この10年余を振り返り,科学史的にみても問題山積のこの問題を分析したい.
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