巻頭言
SARSから学ぶもう一つの課題
丸川 征四郎
1,2
1兵庫医科大学救急・災害医学
2救命救急センター
pp.747
発行日 2003年8月1日
Published Date 2003/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404100701
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2003年6月4日,WHOはSARSの世界での新たな死亡者が報告されなかったと初めて発表した.第1例目の報道以来,約4カ月間の累積死亡者は772人,患者は可能性例を含めて8,402人で,死亡率は単純に計算して9.2%である.SARSは,現代社会においては飛沫感染が世界規模で短期間に拡大することを実証したが,それ以上に現代社会に潜む多くの問題を抉り出したという点でも,歴史的な出来事である.
なかでも,中国における情報の隠蔽はその筆頭である.特に,北京市が病院にSARS発生の口外を禁止したとされ,中国における情報統制の実態と国内情報の不透明性を改めて認識させるものであった.我が国では,厚労省の専門委員会で審査された結果,SARS患者は「0」と報道されている.しかし,WHOは可能性例,疑い例を含めてSARSとして公表することを求めていて,このWHOの定義に従えばSARS患者は「0」ではない.両者の見解には大きな隔たりがある.2003年6月5日,厚労省は70名の可能性例について改めて「SRASコロナウイルス検査を実施する」と発表した.もし,陽性結果であればoutbreakこそなかったがSARS患者がいたことになる.見解の違いなのか情報操作なのか,国際社会と我が国の温度差の大きさを考えさせられる経緯である.
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