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私たちの身の回りのさまざまな情報は,この数年間だけをみても爆発的に増加しつづけています.朝目を覚ましたとたんに,テレビ,ラジオ,新聞に曝されることに始まって,職場で自分の机に向かうと,おびただしい量のコピー,ファクスによる連絡,案内,問い合わせなどがあり,しばらくすると山のような郵便物が届きます.その中身は,学会誌,商業誌,査読依頼,原稿依頼,原稿校正,広告,学会連絡,研究会連絡,アンケート,業績集等々です.これらを開封して,直ちに捨てるものと(私の場合は30~50%),重要なもの,緊急対応が必要なものを仕分けし,所定の場所に持って行くのに30分以上かかります.そして,デスクトップコンピュータを開けると,2~3年前までは1日数通だったEメールが,いまでは国内,国外から毎日20通以上届きます.これらのメールのうちで約半数は重要なものであり,即座に対応しなければなりません(返事を書かないと,すぐに催促が来ます).残りの半数は,あまり重要性はなく,読まなくてもよいようなものです(最近では未開封のまま放置したり,ただちに削除するメールが20~30%ほどにまで増えてきました).この対応に,ひどいときは3時間以上かかることがあります.そして,いくつかの会議にでかけますと,何冊もの本に相当する厚さの資料を毎日のように,持って帰ってくることになります.これは完全に個人の処理能力を超えた情報量であり,落ち着いて物事を考える気持ちのゆとりと,時間がほとんどなくなってきているのが現状です.
情報を提供する立場に立って考えますと,それらをどれだけ有効に伝えることができるかを十分に工夫する必要に迫られています.例えば,循環器領域では,最も評価の高い国際誌であるCirculation(Impact Factor 10.893)の1論文あたりのページ数は年々少なくなってきており,いまでは8ページ以内(4,500 words)となっています.重要な情報は,できるだけわかりやすく(単純,明解),そして短く(Keep It Short and Simple,KISS)という原則です.学会,研究会などにおける学術発表もしかりです.スライドやPCプロジェクターの画面は,可能な限り大きな字で瞬時に内容が理解できるように表現する必要がありますし,時間内に説明できないような事柄や,話の本筋から外れるものは画面から全て削除すべきです.それから,日本人の聴衆には,できるだけ日本語でメッセージを伝えたほうがよいと思います.日本語は,ひとつひとつの漢字に意味があり,アルファベットを並べる英語よりも,はるかに短い時間で意思を伝えることができる言語です.私は,話の展開のなかで,何かを特別に強調したいときだけ単語や,短いフレーズの英語を使うようにしています.
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