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はじめに
サルコイドーシス(sarcoidosis)は,肺,リンパ節,皮膚,眼,心臓,筋肉など全身諸臓器に乾酪壊死のない類上皮細胞肉芽腫が形成される全身性の肉芽腫疾患で,1869年に本症の皮膚病変がHutchinsonによって見出されてから130年以上が経過した今日でも原因はなお不明である.サルコイドーシスの病因に関しては,疾患感受性のある宿主が環境中のなんらかの抗原物質(サルコイドーシス起因体)に曝露されて誘導されるTh1タイプの過敏性免疫反応に起因するらしいことはわかっている.これまで数々の感染因子に関して検索がなされてきたが,サルコイドーシス起因体がいったいどのようなものであるかは最終的には確定されていない.
肺野病変を伴って両側肺門リンパ節腫脹を来すこと,形成される病変が乾酪壊死の有無を除けば結核性肉芽腫に類似しており,病変部には抗酸性を呈する細胞内封入体(HW小体,後述)を認めること,ツベルクリン反応が発症とともに陰性化することなどから,結核との関連性がヨーロッパ諸国を中心に古くから疑われてきたが,サルコイドーシスに伝染性はなく,また結核菌が病変部から培養されることもない.
他方,アクネ菌(Propionibacterium acnes)は日本人サルコイドーシス患者の病変部リンパ節から分離された唯一の微生物で,サルコイドーシス病変部から高率・多量に分離培養されることが知られている.しかしながら,本菌が皮膚の常在菌であるという理由から,その病因的因果関係に関してはその後長年にわたり展開はみられなかった.1999年7月に定量系PCR法を用いた日本人サルコイドーシス患者の解析結果がランセットに掲載され,サルコイドーシスとアクネ菌の関係はにわかに注目を集めた.この報告を受けて同年11月に熊本で開催された国際サルコイドーシス学会(第6回WASOG会議)では,国際共同研究が企画され,その解析結果がシンポジウムにて検討された.2005年6月デンバーで開催された第8回WASOG会議では,同様の国際共同体制にてアクネ菌に対する抗体(後述)を用いた解析結果が報告され,本菌の細胞内感染と肉芽腫形成との関連が特に「L-form pathology」の観点から討論された.
本稿では,「アクネ菌の内因性感染が原因となり過敏性免疫反応を惹起する結果として本症が発症する」とする「アクネ菌病因説」の研究経緯1,2)を紹介する.また,将来の抗生剤治療への発展を考慮し,「細胞内に潜在性感染した細胞壁欠失型のアクネ菌が内因性活性化を契機にマクロファージ細胞内で異常増殖することが発症をトリガーしている」可能性についても言及したい.
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