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はじめに
心臓を構成している心筋細胞は,神経細胞と同様に生後まもなく分裂増殖しなくなり,以後の心筋の成長は心筋細胞の容積増量,いわゆる生理的肥大によると長い間考えられてきた.心筋梗塞・心筋炎などの心疾患では,限りある心筋細胞の一部がネクローシス・アポトーシスによって失われ,結果として残存する心筋細胞に過度の負荷がかかり,さらに障害が進展する,いわゆる心筋リモデリングが生じ,悪循環から破綻に陥り心不全に至る.そこで,失われた心筋細胞を補う目的で,最近研究が著しく進歩している心臓に対する心筋細胞再生医療1)は,失われた心筋細胞を幹細胞の増殖・分化や分化した細胞の分化転換によって補おうとする新しい治療法である.現在のところ,最も多分化能を有する細胞はES細胞(胚性幹細胞,embryonic stem sell)であると考えられているが,ES細胞の獲得には受精卵が必要であり,その臨床応用には倫理的に大きな障壁が存在する.一方,成人個体においても,その骨髄に多分化能を有する幹細胞の存在が証明され,再生医療のソースとして用いられている.骨髄細胞やES細胞を心筋に注入することによる,または心臓に存在する心筋幹細胞を賦活化することによる心筋再生医療の研究が進んでいるが,臨床応用にはまだ時間がかかるものと思われる.また,心筋への細胞移植に伴う致死的不整脈発生の問題や,ES細胞などからの奇形腫発生の問題などクリアすべき問題も多い.
心不全の原因の多くは血流の低下に伴う心筋虚血であり,冠動脈の閉塞による冠循環の破綻による.1997年にAsaharaらによって,既存の内皮細胞の増殖(angiogenesis)によるのではなく,あらたに遠隔から局所に動員された未分化細胞(endothelial progenitor cell;EPC)の血管内皮への分化・増殖による血管の新生様式(vasculogenesis)があり,その担い手が骨髄であることが発見された2).成人においても,骨髄中の未分化細胞は十分に存在することがわかっており,これを用いた自家骨髄細胞移植による再生医療はES細胞や遺伝子を用いた血管再生医療に比べて倫理的制約がないため,広く受け入れられ,動物実験のみならず,臨床応用もされている.しかし,直接骨髄から骨髄細胞を採取して心臓に注射する方法も患者への侵襲は大きいことから,より簡便な,G-CSFなどの造血性サイトカインによる骨髄由来の未分化細胞の末梢血への動員を介した非侵襲的再生医療の可能性が脚光を浴びている.
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