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急性肺損傷(ALI:acute lung injury)/急性呼吸窮迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)は肺胞隔壁を構成する肺微小血管内皮・肺胞上皮の損傷による透過性肺水腫である.その発症病態には活性化された好中球・マクロファージなどの炎症細胞のみならず凝固系の異常が関わっている.その主たる臨床所見は,急性の呼吸不全に基づく進行性の呼吸困難と胸部X線写真上の両側性浸潤陰影である.極めて多彩な原因によって発症するが,敗血症・重症外傷・外科手術後(食道,大血管)などが原因で発症する場合には間接的ALI/ARDS,肺炎など肺に直接的に生じた炎症から進展した場合には直接的ALI/ARDSと呼ぶ.
1960年代半ばよりこの不思議な非心原性肺水腫の存在は知られており,当初よりARDSと呼ばれたが,adult respiratory distress syndrome の略であった.その死亡率は極めて高く,1960年代では80~90%であったと推定されている.現在でも40~50%である.図にシアトルにあるHarborview Medical CenterにおけるALI/ARDSの死亡率の経年推移を示した(1983年から1998年).1985年頃には60~70%であった死亡率が約15年で40%程度にまで低下しているのがわかる.2000年にlow tidal volume ventilationがALI/ARDSの死亡率を有意に低下させたという多施設臨床研究(RCT:randomized control trial)での結果があるが,それ以前の成績である.重要な点は,1983年から1998年の間に,ALI/ARDSの死亡率を低下させたという多施設RCTは一つも報告されていないということである.
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