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今回のテーマは「薬剤関連消化管病変」であり,「薬剤性消化管障害」より器質的なものに対象を絞った内容となっている.病変の成立機序はアレルギー性と非アレルギー性に大別されるが,さらに後者には直接的な細胞傷害作用,プロスタグランジン合成阻害,虚血(血栓・塞栓,血管攣縮,血管内皮傷害),血液凝固障害,粘膜の透過性亢進,物質の沈着,腸内細菌叢の変化,平滑筋や神経叢を介した消化管運動障害,免疫機能の低下・賦活化,pH・浸透圧の変化,内圧上昇,腫瘍の縮小などさまざまな機序が含まれる.
病変が形成されるか否かは宿主要因(年齢,性別,遺伝的素因,免疫機能,基礎疾患など)と薬剤要因(種類,量,期間,併用薬剤など)により決定される.薬剤の曝露から発症までが時間的に近接しており,発生確率が高ければ因果関係の推定は容易であるが,そうでなければ関連性に気づくことは難しい.疫学的に炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)の発症リスクを高めると報告されている薬剤が多数あるが,直接的要因とは考えにくい.“風が吹けば桶屋”的な因果関係の連鎖によって発生する病態も存在すると考えられるが,どこまでを薬剤関連と捉えるかについての明確な基準はない.疫学においては因果関係を考える基準として,一致性(consistency),強固性(strength),特異性(specificity),時間性(temporal relationship),整合性(coherence)などの視点が重要視されてきた.一方,例えばNSAID(nonsteroidal anti-inflammatory drugs)起因性腸炎の臨床的な判断基準として,①発症前からの薬剤使用歴があること,②感染性腸炎が否定されること,③薬剤中止後に病変が改善すること,④抗菌薬の使用歴がないこと,⑤病理組織学的に特異的な所見を認めないこと,が提唱されてきた.意図的な再投与試験は倫理的に許容されないが,意図せず再投与が行われたことで因果関係が判明したケースも存在する.薬剤の使用が発症に先行することは病変と薬剤の関連性を疑ううえで不可欠な事項と考えられるが,時系列のみを優先するとpost hocの誤謬に陥る危険性を孕む.薬剤中止のみで病変が改善するという項目については,これまでにも重症CDI(Clostridioides difficile infection)など当てはまらない状況が存在したが,免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(immune-related adverse events ; irAE)では病変が自働性を獲得する(薬剤中止後も病変が持続する)こともありうる.したがって,病変が薬剤と関連して発症したものなのか,その判断基準を再考する必要がある.
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