沈思黙考
被災地にて
林 謙治
1
1国立保健医療科学院
pp.644
発行日 2011年8月15日
Published Date 2011/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102197
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震災と関連した仕事で仙台に行ってきた.被災地の閖上(ゆりあげ)地区は仙台市郊外の名取市の一角で町中から車で約40分のところである.ここに行くには東部道路という高速道路を通って行くわけだが,震災の影響で道の数か所に大きな段差ができたそうで,今は修復されている.この高速道路は土盛りの上に舗装されており,そのために津波がここで止まっている.つまり道が防潮堤の役割を果たした形になっており,高速道路をはさんで被災地区と道路の向こう側では様相が一変している.被災地区では許可書がない車は入れないようになっており,がれき処理の工事に取り組んでいる作業員と自衛隊員をちらほら見るだけで,人影はまばらであった.土台しか残っていない家がほとんどで,打ち上げられた船が底を上に横たわっている姿も見えた.テレビで見るのと違って,やはり生々しい光景であった.
かつて町中と思われる一角に人工的に土を盛った3mほどの小高い丘があった.コンクリートの階段を昇って見渡すと,辺り一面荒涼とした風景である.丘の上は40m2程度の長方形の狭いところで,角にもともと戦死者の記念碑が建っており,碑のほかに今回の災害で亡くなった方々を悼む木板や花が周囲を巡るように供えられていた.そのなかに子どもが書いたと思われる字句や絵があり,よけいに痛ましく感じられた.聞くところによると津波が襲ってきたとき,近所の方々はこの丘の上に避難し,それでも足が水に20~30cmも浸かったそうである.さぞかし心もとなかっただろう.
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