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本号の主題は「高齢者消化管疾患の特徴」である.わが国はこれまでにない高齢化社会を迎えた.2012年9月17日(敬老の日)の中日新聞朝刊では「65歳以上3,000万人突破」をタイトルとして,「敬老の日」を前にした2012年9月15日時点での総務省による最新の推計を引用して,65歳以上の人口は3,074万人(男性1,315万人,女性1,759万人)と,本年に初めて3,000万人を突破したとしている.これは“団塊の世代”の先頭グループ(1947年生まれの人)が今年になって仲間入りしたため,前年より“高齢者”が102万人増加したことに起因しており,総人口に占める割合は24.1%と過去最高を更新した.また,75歳以上は1,517万人(総人口の11.9%)と,75歳以上が1,500万人を超えるのも初めて,と報道している.このような状況下での診療においては,高齢者の消化器疾患の臨床的特徴,病態を把握しておくことは不可欠と言える.
本号の主題論文11編のうち,7編が原著形式で書かれている.海崎は食道癌318例,胃癌2,180例,大腸癌1,665例を対象として病理組織学検討を行っている.特に,高齢者では胃腺窩上皮型胃型腺癌,胃充実型低分化腺癌,大腸髄様型低分化腺癌,大腸粘液癌のように,臨床病理学的にも類似の特異的特徴をもち,予後も良好である組織型群が存在する.そして,高齢者のがん診療にこそ,それらの特徴に合わせた診断・治療が必要であると述べている.また,大腸髄様型低分化腺癌の1例を櫻井が症例報告している.東京都健康長寿医療センターでは,同疾患50例の病理組織学的検討を「胃と腸」45巻11号(2010年)にて行っているため,併せてご一読いただきたい.食道癌は千野,胃癌は宮永,大腸癌は松田と,いずれも外科が担当している.食道癌445例の検討では,高齢者に内視鏡治療例が多く,外科的切除術の割合が低下していた.また,手術適応と術式選択を慎重に判断することにより,治療成績に差がない.胃癌1,859例では,リンパ節転移は高齢者に多いが,切除例では差がなかった.胃癌死亡や粗死亡では,早期胃癌に対する外科治療法別に生存率の差は認められなかった.大腸癌1,443例では根治度に差はないが,郭清度が低く,根治性を考えながら患者の状態に合わせて縮小手術を選択しているため,手術時間は短かった.また,小腸病変では平井がカプセル内視鏡検査220例,ダブルバルーン内視鏡検査475例を検討し,ともに炎症性疾患が少なく,腫瘍性疾患と血管性疾患が多いとしている.
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