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1概念,病態 内視鏡検査時,胃粘膜に,あたかも鶏の毛をむしり取った後の皮膚のように,胃粘膜に均一な小顆粒状隆起が密集して認められるものを鳥肌状胃粘膜と呼び,その所見は胃角部から前庭部に認められることが多い.1962年に竹本ら1)は,20歳女性の胃カメラ所見で初めて“とりはだ”なる表現を用い,その後,“内視鏡的鳥肌現象”として報告した.硬性鏡検査時によく観察され,若い女性に多く,検査に対して精神的緊張が強いために起こるのではないかと当初は考えられた.そのため,鳥肌状の胃粘膜を認めても,若い女性に多い生理的現象であると理解され,病的意義は少ないと理解されていた2).竹本らの報告後,小西ら3)は“鳥肌状胃炎”と呼び,若年者に認められる化生性胃炎の初期像として,さらに,1985年に宮川ら4)は21例の鳥肌状胃粘膜症例を検討し.組織学的に腺窩上皮の過形成がほとんどの症例にあり,リンパ濾胞形成が多く認められたことを報告している.その後,鳥肌胃炎は,H. pylori(Helicobacter pylori)感染によって起こる,若年者に好発する胃炎の一形態であることが明らかになった.海外では小児のH. pylori感染例に好発する前庭部の結節状粘膜をantral nodularity,あるいはantral nodular hyperplasiaと表現し,nodular antritisやnodular gastritisと診断されてきた.本邦における報告でも,小児のH. pylori感染の内視鏡所見は結節性変化(nodularity)が特徴的で,リンパ濾胞の増生がその本体であり,除菌により変化は消失することが明らかにされている.胃炎の国際分類であるUpdated Sydney Systemでは内視鏡所見としてnodularityは取り上げられているが,胃炎の診断分類には残念ながら取り上げられていない.
鳥肌胃炎の頻度については,筆者らの検討5)では,16歳以上の成人97,262例の上部消化管内視鏡検査の結果,187例(0.19%)に鳥肌胃炎を認めた.年齢分布では20代,30代に多く,男女比は1 : 2.82で女性に多く認められている.H. pylori感染はほぼ全症例で陽性であり,また,組織学的に粘膜内のリンパ濾胞の増生と腫大を認める.187例のうち,22例は消化性潰瘍を,2例には胃癌を,1例に胃MALTomaの合併を認め,器質的疾患の合併は高率であった.また,187例中151例(81%)に腹痛や腹部不快感などの症状を伴っており,除菌により内視鏡所見とともにその症状は明らかに改善を認めた.時に,Helicobacter heilmannii感染が鳥肌胃炎の原因となっていることがある.
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