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Ⅰ.まえがき
胃X線診断は,X線装置の改良と診断技術の向上と相まって,ここ数年の間に驚異的進歩を遂げ,今や,粍単位の病変の追求がなされている.また,鑑別診断も高い精度が要求されるようになった.もちろんこのため,胃内視鏡や胃細胞診の力を借りねばならない場合も多々あるわけであるが,X線単独での診断能も非常に進歩してきた.胃粘膜下良性腫瘍のX線診断に関し,すでに諸家の報告が多くみられるのであるが,一般に困難であるという結論に達している.国立がんセンター病院で,過去約3年間に,13例のSubmucosaI Tumorを経験したので,これらの症例をふり返って,X線診断の可能性,診断根拠となる所見を調べてみる.胃粘膜下迷入組織は,臨床上Submucosal Tumorと呼ぶときには,これを加えて考えるものであるから,ここでは,胃粘膜下腫瘍の「腫瘍」という言葉にこだわらずに考慮に入れることにする.すでに,Schindler3)(1942),Katsch4)(1953),Teschendorf1)(1948),Schinz(1954)らの記載にみられるごとく,確かに,X線的に,また,内視鏡的に胃粘膜下腫瘍に特有な所見は存在するのであるが,すべての症例に,これらの条件を満足する像がみいだせるとはいい得ない.いずれにしても,隆起性病変であるから,腫瘤が大きい場合はBorrmannⅠ型の胃癌や胃肉腫との鑑別が必要であり,小隆起の場合は,表面隆起型早期胃癌(Ⅱa),たけの低い無茎ポリープ,Erosive gastritis,また,単なる過形成性の胃粘膜との鑑別が問題になる例にしばしば遭遇する.自験例13例のうちわけは第1,2表に示すごとく,大きさは最大35×60mm,最小7×5mmで,15×15mm以下の小病変が8例と過半数を占めている.組織像で迷入膵が7例と多いのは,やはり,小病変が多いことによると思われる.発生部位は胃前庭部に圧倒的に多く,前後壁の比はやや前壁が多い.性別はほぼ同数であり,年齢分布は31歳より67歳と比較的高年層に多い.X線単独でSubmucosal Tumorと確診し得たのは8例,ポリープとしたもの2例,表面隆起型早期胃癌の疑いとしたもの2例であり,もう1例は,胃変形が強く,胃内隆起を的確にX線フィルムにとらえ得なかったものである.しかし,見直してみると,ポリープとしたもの2例およびⅡaと誤診された1例は,検査不充分で,隆起とその周辺粘膜の関連が追求されていないためといえる.もし充分な検索が行なわれたならば,X線的に,粘膜下腫瘍という診断は可能であったろうと思われる.以下症例について説明を加える.
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