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大多数の解剖学や組織学の本には胃粘膜には胃小窩という小さい孔が胃腺分泌孔として無数に開口していると記載されている.しかし,拡大鏡や実体顕微鏡で観察すると,胃小窩と言う孔のみではなく,しばしば小さい溝として認められる.この状態は筆者の考案したAH法実体顕微鏡観察(8~40×)で極めて明瞭に認めることができる(方法:フォルマリン固定胃をアルシアンブルー,ヘマトキシリンで染め,水中に入れたまま実体顕微鏡で観察する.これは後の組織学的検索に支障をきたさないので便利である).図1のように,胃小窩のみが一定の配列をしている状態を胃小窩模様(Foveolar pattern,FPと略),図2のように小さい溝が一定の模様をなして配列しているのを胃小溝模様(Sulciolar pattern,SPと略)と命名し,図3のように両者が混合しているものをFSPの記号で表現している.正常胃でもFP,FSP,SPいずれのパターンを示すかは個人差があって一律には言えない.大ざっぱに言って体部腺域はFPを,幽門腺域はFSPあるいはSPを示す(幽門腺域でも時にFPを,また体部腺域でもSPを示すことがある).慢性胃炎があるとFPからFSP,SPへと変化する傾向がある.過形成性胃炎や,固有層の細胞浸潤または浮腫の強い胃炎ではパターンが粗大化する.図4のようになったものを網状SPと名付けた.これは,比較的軽度な慢性胃炎の時に見られる.図5のようになったものを脳回状SPと名付けた.これは図2のようなSPが極端に誇張されたもので,粘膜上皮の剝離,再生がくり返される間にSP化が更に進行してでき上るものと思われる.比較的はげしい胃炎のあとでは図6のように,SPの乱れがおこる.萎縮性胃炎に特有なFP,SPの変化と言うものはないが,大体例外なくSPを呈し,そのパターンは粗密不規則で形も乱れている.腸上皮化生部は粗大化した網状SP,あるいは脳回状SPを示し,非化生部より濃紫染する型と,ヘマトキシリンによく染まらない型(H不染型)とがある(詳細は胃と腸,6巻7号881~888頁参照).びらん部,潰瘍辺縁,早期癌,進行癌,ポリープなどは正常とは全く異なった像を示すが,これらについては次回以後に述べる.
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