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早期大腸癌の内視鏡的切除の適応は,リンパ節転移のリスクを考慮すれば,深達度sm1までである1).しかし,内視鏡的に表面性状の違いにより,sm1かsm2か判断することは極めて困難であり,手術すべきものか?内視鏡的切除で十分か?の判断に対する明確な客観的指標は今のところ存在しない.実際的には,生検で癌と診断されている場合は,とりあえずstrip biopsyを試み,生理食塩水を注入しても病変が持ち上がらない場合は,sm massiveの可能性が高いので,内視鏡的切除を諦めて,手術切除へと治療を決定している場合が多い2).だが,この方法では透明な生理食塩水による隆起と病変との区別が難しく,客観的指標とはなりえない.筆者らは,生理食塩水に色素を加えることによって,注入で形成された隆起と病変の隆起を明瞭に区別することを可能とした.これにより,癌の浸潤がsm2以下の場合,病変が挙上しない“non-lifting sign”として明瞭に示される.
Fig. 1は,S状結腸の9mmの高分化型腺癌である.中央がわずかに陥凹しており,Ⅱa+Ⅱcであるが,表面性状はノッペリとしており,びらんもなく,これだけではm癌かsm癌かの区別すら不可能である.そのため,病変の辺縁3か所に色素入りの生理食塩水を注入したところ,隆起病変の肩の部分が完全に消失し,色素が透見される注入部位のみが隆起し,病変全体は挙上せず,むしろ相対的に陥凹した.この所見(non-liftingsign)から,smへmassiveに浸潤した癌と診断し,開腹手術の治療を選択した.隆起しなかった原因を組織学的に立証するために,開腹手術前日に色素を注入したときと同様に墨汁を注入した.手術により摘出された病変の深達度はsm2であり,墨汁は癌組織の手前で.止まっていた(Fig. 2).粘膜下組織に浸潤した癌の周囲では,密に交錯する線維増生が生じており,これが粘膜下層で剥がれなかった原因であった.
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