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はじめに—認知症対策の変遷と看護実践
認知症は,「通常,慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ,記憶,思考,見当識,理解,計算,学修,言語,判断など多数の高次脳機能障害からなる症候群」という,ICD-10(1993年)(World Health Organization, 1993)による定義が示されて久しい。また,加齢に伴う生理的健忘とは異なり,Alzheimer病,Lewy小体病などの中枢神経変性疾患や脳梗塞,硬膜下血種などの血管性疾患が病因として存在することから,認知症対策は「早期発見・早期治療」が掲げられ,スクリーニング検査や画像診断の発展,治療法の確立,そして2023年には,Alzheimer病の原因に働きかけるレカネマブ(商品名:レケンビ)が治療薬として登場するに至っている。
しかし,認知症は多数の高次脳機能障害からなる症候群であり,その影響は日常生活全般に波及することから,認知症に対する施策としては2012年の認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)註1,2015年の認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)註2ともに認知症治療薬剤の開発だけでなく,認知症に対する偏見の払拭と理解ある地域の創生,認知症に対するリハビリやケア研究の推進,介護者の負担に対する配慮等が含まれており,より包括的なアプローチが必要であることは明白である。そして,2019年に策定された認知症施策推進大綱註3では,「認知症の人」 と「その家族」は,それぞれ別の支援対象者であることを明確にする,認知症の人を「被支援者」としてのみとらえるのではなく,本人の能力を活かした地域での共生をめざす,といった考え方が加えられた。つまり,認知症の対策は医療や介護の専門機関だけでなく,生活の場でまちづくりと共に行われることが期待されているといえる。
筆者は,2000年頃から,認知症を有して地域で生活する高齢者への看護介入プログラムの開発に着手し,介入方法や介入プログラムの作成を行ってきた(平林,水谷,2003;高見,水谷,2011)。そして,これらの研究成果や明らかとなった課題を掲げた上で,認知症の人々やその家族に対する看護実践モデルの検討を重ねている(表1)。
そこで本連載ではこれまでの回と少し趣向を変えて,「認知症ステージアプローチに基づく看護実践モデルの構築」と「超高齢社会における認知症ケアモデルの開発」を取り上げ,これら研究の歩みから,認知症の人々に対する看護実践モデルを考察する。

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