--------------------
書評「黄疸」
市川 文弘
1
1新潟大学
pp.1676
発行日 1978年12月25日
Published Date 1978/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403107574
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
わが国の消化器病学,とくに肝臓学における大先輩で,この方面で数多くの秀れた指導者を養成された九州大学の澤田藤一郎名誉教授がその門下生で,以前アメリカのWatson教授のもとで研究されていた柴田雄蔵先生との共著として,この度「黄疸」(医学書院)を出版された.
この序文には「医師を志し,医学を学んだものは必らずや一度は黄疸という徴候に興味をもったことであろう.黄疸は体が黄色に染まる徴候で簡単であり,胆赤色素すなわちビリルビンで染まったものだろうということは誰しも考えることであるが,古来甲論乙駁ながい歴史をもって今日に至っている」という文章ではじまり,澤田先生のビリルビンとの出会い,臓器摘出保生灌流実験による肝臓,および肺臓においてインジカンの生成を証明した時の喜び,ビリルビンとグルクロン酸とを測定していながら,直接ビリルビンがグルクロン酸ビリルビンであることに気づかなかった悔しさが手をとるように読みとられる.そして「全く研究は失敗の連続であり,そのくり返しであり,アルバイトすなわち労働とはよく言ったもので,自分の永年の研究歴をかえりみて,つくづくその感を深くする」という言葉で結ばれている.わが国の肝臓学の先覚者である澤田先生のこの生の言葉を学生諸君,あるいは若い研究者が十分に嚙みしめてほしいものである.しかも学生諸君が講義で教えられて,知っている諸々の学問的な既成事実,たとえば直接ビリルビンはグルクロン酸の抱合型であるとか,肝炎ウイルスの分離,同定に先輩達はいかに努力し,苦渋したかを知ることは知識を正確にする上からもきわめて重要なことである.
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.