- 有料閲覧
- 文献概要
慢性膵炎の病因のなかで,栄養障害やアルコール多飲,あるいは胆石症などの明らかな成因を検索しえない症例は数%から数十%と報告されている.この従来原因不明とされてきた慢性膵炎の一部に,膵の胎生期における膵管系の発育異常に基づく慢性膵障害が含まれていると思われる.膵は胎生6~7週に2つの膵原基-腹側膵ventral pancreasと背側膵dorsal pancreasの融合によって完成される.この腹側膵は最初左右2コの原基として発生するが,発育途上において左腹側膵原基は萎縮消失し,右側のみ十二指腸の軸回転により背側膵の後方に移動しこれと融合する.この両側腹側膵原基が遺残し,右側原基のみ軸回転した場合,輪状膵annular pancreasが生じると考えられている.輪状膵は稀な奇形ではあるが,比較的popularな疾患である.そして,本症に急性あるいは慢性膵炎を併発した場合,十二指腸閉塞による高位のイレウス症状を呈し,その診断は決して困難ではない.輪状膵に併発した膵炎の成因は明らかでないが,十二指腸狭窄に伴う膵液排液排出障害が推定される.
前述の腹側膵と背側膵の合一の後,腹側膵管と背側膵管は融合し,通常の主膵管と副膵管(Santorini管)を形成する.しかし,両膵管系に交通が生じなかった場合,腹側膵は十二指腸乳頭口を介して,また背側膵は副乳頭ロを介して膵液を排出することになる.この膵管融合不全malfusionは欧米ではERCP施行数の3~4%に認められ,必ずしも稀な奇形ではない.しかし,この膵管奇形が,膵炎,とくに従来原因不明とされてきた慢性膵炎の1病因であるとして,最近その重要性が指摘されてきた.1976年までに,ロンドン・ミドルセックス病院消化器科(Dr. P. B. Cotton)で,ERCPにより診断された膵malfusionは29症例であり,その頻度は4%であった.ERCPで腹側膵のみ造影されたもの24例,同時に副乳頭口からのカニュレーションにより背側膵も造影できたものの4症例,背側膵のみ造影されたもの1症例であった.副乳頭口を介する背側膵の造影成功率は33%であった.
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.