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日本の胃癌診断が世界最高レベルにあることに異論はない.これは単に日本の胃癌発生率が欧米に比して極度に高いことによるだけでなく,X線,内視鏡といった診断結果を手術所見と克明に対比して,存在診断から質的診断へと常に診断能の向上を志した先人の精力的努力の賜にほかならない.今回医学書院から上梓された「腹部疾患の超音波・CT診断」も正にこの流れに沿う好著である.
著者の新妻伸二博士は新潟県立がんセンターの放射線科部長であるが,開院以来の同院の放射線診療を担ってこられた.元来X線診断,特に消化器疾患の診断に造詣が深く,非凡な着想をたちまち実行に移す行動力にも恵まれている.例えばジャイロ式と呼ばれる大型で高価な装置が定着する以前から,消化管の仰・伏・側臥位水平方行透視撮影の可能な装置を考案して,注腸二重造影検査に優れた成果を挙げた.また,経口胆囊造影法の欠点として肝内胆管が描出されないことについては,胆囊収縮剤セルレイン筋肉注射後約10分間右側臥位を保持して,水平方向撮影を行う方法によりこの問題を解決するなど,学会内で高く評価される業績を発表している.このような著者の鋭い認識が今回の著書の主張となっている.すなわち,透視,CT,血管撮影,US,RI検査など数多い腹部画像診断法の中で,USをdecision treeの根幹にしようというものである.上述の各種診断法は長所短所を有し,それぞれが補完し合って診断が確定するのであるが,侵襲が全くなく,即時性の極めて大きいパーソナルUSを,聴・打・触診の次に据えて以後の検査の振り分けを行うという狙いである.同院での過去3年余のCT8,000例,US3,000例の経験を踏まえて,ほぼ同時期に再検査の行われた代表的な80数例を掲げて,両者を対比しつつUSの使用法が説明されている.特に未だ早期診断の機会に恵まれることの少ない腹部悪性腫瘍のスクリーニングに果たすUSの役割の大きいことを述べており,極めて説得力のある主張で,全幅の讃意を表するものである.
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