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外国で診断のレクチャーをするとき,必ずプレパラートを見せることにしている.X線や内視鏡写真と並べて見せる.外国の診断屋さんの方も,しばしば病理屋さんをつれてくる.彼らも納得させなくては,こちらの診断を信じてくれない.病理診断とは,左様に重さを持つものである.重くて,しかも高い臨床的地位を得ているのである.困ったから口走るという診断名では,いけないのである.何々と思われるというのでは困るのである.
腫腺と癌の最近の話題に関連して,かつて「Atlas of X-ray Diagnosis of Early Gastric Cancer」を出したときを思い出す.これは癌だ,いや癌とは言えない,などと当代一流のえらい病理の先生がたの診断と意見が,当時は,それはそれは開離していたものである.われわれは,困り果てたあげく,自分の信ずる先生方たちの診断が癌だと一致した症例だけを使ったのを覚えている.惜しい数々のX線写真を捨てることにもなってしまった.残念に思ったものだった.出版後まもなく,案の定,外国から実物のプレパラートを見せろと言ってきた.送ったが,早速,送り返えしてきて,100%信用したと書いてあった.そのうちに,日本では,癌,癌じゃない,の論争はなくなった.腫腺と癌の論議は,早期胃癌のときほどの開離はないように見受ける。峠は越した感がある。腫腺と癌を取り上げ,論点と論争を明らかにしようという今の事情も,私の人生においては,再度の経験である.早期胃癌の当時と何ら変わらないようにみえる。聴いていて,見ていて,楽しくて仕様がない.臨床が新しい病変を拾い上げてきたからこその,新しい振動であり,確かな知見の濾過的現象が起こっているのである.早期胃癌のときとは年代も違ったニューリーダーたちの登場をみたわけである.繰り返すが,私にとっては二度の幸運に恵まれたことになる.
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