- 有料閲覧
- 文献概要
満開の桜花を散らせた強風雨もあがり,気温も少し下がり快適なパシフィコ横浜にDDWを迎えた.消化器病関連の学会が集まるのを見ると,毎年のことながらこの領域の研究の広さと深さを実感する.1人ですべてを見聞することは不可能で,食道疾患に関係するものだけを見て回ることが精いっぱいであった.目を見張るような変化はないものの,着実な進歩を見ることができたように思えた.シンポジウム3「消化管における多発癌及び重複癌の基礎と臨床」(司会:浜松医大2外・馬場正三先生,帝京大市原病院3内・中村孝司先生)が大変興味深かった.食道,胃,大腸の各分野を取り上げていた.
食道癌に関連して印象深い発表をいくつか紹介する.金本彰先生(国立がんセンター中央病院内科)は食道の表在癌359例を分析し報告した.多くは扁平上皮癌であるが,その28%に多発病巣がみられた.男性,なかでも喫煙者に多かった.重複癌は35~51%と高頻度に認め,咽頭癌の合併が目立っていた.粘膜癌に対する内視鏡治療が盛んになった現在,注目に値する発表である.上堂文也先生(大阪成人病センター3内)は,頭頸部癌症例における上部消化管の重複癌について検討して報告した.頭頸部癌手術例111症例を検討し,10.8%に上部消化管の同時性重複癌を認めている.なかでも食道癌の占める割合が高く比較的早期の状態で発見されていた.食道に次いで頻度の高いものは胃癌であった.頭頸部癌における重複癌のスクリーニングの重要性が改めて認識された.清水勇一先生(恵佑会札幌病院内科)は,食道表在癌233症例の分析結果を述べた.他臓器重複癌は26.2%にあり,他癌の先行するもの19に対して同時性31であった.他臓器癌既往症例や他臓器担癌症例は食道癌のリスクファクターであることを明らかにした.他臓器癌既往症例や他臓器担癌症例240例に食道癌のスクリーニングを行い,2.5%の頻度で食道癌を発見,しかも粘膜癌が大部分を占め,内視鏡治療が可能であったと述べた.多数の食道表在癌が臨床の場に登場する現在,いずれも示唆に富む良い発表であった.
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.