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食道癌小病変診断への期待
食道癌に限らず,悪性腫瘍は小さなうちに見つけたいと誰でも考える.癌は小さな細胞集団に始まり,時間経過とともに大きくなる.だから小さな病変は大きな病変に比べて,より早期の段階にあるに違いない.つまり病変の大きさは,癌が発生してからの時間経過を表現しているに違いない.そう考えれば小さな病変ほど限局していて周囲への浸潤や転移の程度は軽度であるはずだ.したがって小さな病変ほど根治できる可能性が高く,条件に恵まれれば小さな侵襲での治療や,治療後の機能温存も可能かもしれない.さらに癌の発育進展という観点からみれば,十分に小さな病変は癌の初期像か,それに近い所見を教えてくれる可能性がある.同時に診断や評価にはその時代特有の限界があり,より早期の病変の診断には,その限界を打ち破る出来事を伴う場合が多い.こういった期待を持たせる対象であるがために,いつの時代も小病変に対する期待がある.
上部消化管用内視鏡の性能は劇的な向上を遂げたが,これと並行して色素内視鏡検査法が確立され,食道原発扁平上皮癌の診断は新たな発展段階に入った.粘膜下層癌の診断が限界であった時代から,上皮内癌・粘膜癌の診断が可能な時代となり30年,EMR(endoscopic mucosal resection)により病巣全体の組織学的観察が可能となって20年が経過した.上皮内癌・粘膜癌の治療成績についても豊富な経験を積んだ.早期の食道癌は仮説の時代を過ぎて,事実の裏付けを持つことができた.“食道の早期癌は粘膜癌”とする合意もできた.最近の拡大観察,NBI(narrow band imaging)に代表される特殊光観察,さらに超拡大観察(endocytoscopy)は,組織構造の異常だけにとどまらず,対象となる細胞が表層の部分のみとはいえ,生きた上皮細胞の形態学的観察を可能とした.一段と能力を増した診断技術を活用することで,扁平上皮癌について新たに何が見えてくるのだろうか.
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