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はじめに
カメラオブスキュラに始まる写真が急速に発展を遂げる過程で,“バカチョンカメラ”と称する自動機構をもつカメラが爆発的に普及した歴史があった.この種のカメラは面倒な焦点調節,露出,フィルム巻き上げさえもカメラが自動でやってくれる.写真に関する知識に乏しい人であっても,シャッターチャンスに恵まれさえすれば,簡単に名作を撮影できる便利なカメラである.便利な反面,写真を撮る楽しみを奪う機能を有するカメラであり,ベテランカメラマンからみると,“神聖な写真”を冒涜するけしからぬカメラであり,“バカチョン…”と称して軽蔑した経緯があった.
内視鏡写真の撮影にあたっても,バカチョンカメラ的取り組みでも画質の高い画像を得ることができる.内視鏡器械の進歩によって,余程の手抜きをしない限り,器械任せにしておけば鮮明な画像を撮影できる.露出条件などの難しいことは器械に任せて,内視鏡医はひたすら画面に集中してレリーズボタンを押せば鮮明な内視鏡像を残すことができる.写真撮影のための余分な労力を払うことなく,煩雑な内視鏡検査に集中できるので有難い.私たちはごく当たり前に,意識することなくこの機能を活用しているが,内視鏡検査の黎明期を知る者にとっては驚くべき進歩である.内視鏡の分野でも写真科学の進歩の恩恵を享受できている.
かくして失敗することが珍しい内視鏡写真撮影であるが,学会や研究会,症例検討会などで提示される内視鏡像の中には,首をかしげるような写真が少なくない.写真としての技術論以前に,病変の成り立ちを十分に描出しようという意図が見えない画像では良い内視鏡写真であるとは言えない.そこで本稿では良い内視鏡写真をめぐって,一歩先を行く内視鏡写真を撮るためにはどうすればよいか,筆者の持論を展開してみたい.
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