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はじめに
早期胃癌に対する内視鏡治療は,IT(insulation-tipped diathermic)ナイフ1)2)をはじめ種々の高周波ナイフが開発され,それらを用いた新しい手技,ESD(endoscopic submucosal dissection)が登場して以来大きく変化した.
部位や大きさにもよるが,ほとんど後遺症がないことが最大の利点であり,治療後の患者の生活の質(QOL)は,外科切除に比べて明らかに優れている.最近は,胃癌学会のガイドラインの適応(Table 1,濃い青色部)を超える,いわゆる適応拡大病変に対してもESDが施行される傾向にある(Table 1,濃い青色部+薄い青色部)3).一方,腹腔鏡下手術は,開腹手術に比べて術後の回復が早いとされており,また,胃切除せずに,ESDを施行し,その後見張りリンパ節(センチネルリンパ節)のみ切除するなどのさらなる縮小手術も行われている.
しかし,はじめに申し上げておかなければならない点が1つあり,それはESDの適応拡大も,胃癌の腹腔鏡手術も,どちらもその有効性と安全性が科学的に証明されていないということである.
ESDの拡大適応はretrospectiveなリンパ節転移の検討からリスクが低いと思われる対象を抽出したものである.長期予後についてのデータと,現在進行中であるが,prospective研究の結果が必要である.
また,早期胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術も,治療効果,安全性,後遺症などについて大規模な研究は行われていない.
センチネルリンパ節切除に関しても,現時点では,早期胃癌においてセンチネルリンパ節の郭清のみでよいかどうかについては確定していない.いくつかの臨床試験が進行中であるが,偽陰性(センチネルリンパ節以外のリンパ節への転移)のため,一時中断している試験もある.
いずれも,retrospectiveな検討もしくは小規模の臨床研究と,臨床家の個人的な印象により,良好であると思われており,理論よりも現実が先行している.筆者もESDの適応拡大を進めている一人ではあるが,よかれと思って行ったことが誤りであったことは医学の歴史にもしばしばみられることである.早期胃癌は治癒可能な疾患であり,科学的に証明された適応を決めるように努力しなければならないと思う.
早期胃癌に対するESDと腹腔鏡下手術の接点となると,①ESD後の病理組織結果により,リンパ節郭清の程度を決定,②ESD後,センチネルリンパ節郭清,などが挙げられる.先に述べた理由で,②のセンチネルリンパ節郭清は現時点では採用しがたいと考えている.
①のリンパ節郭清の程度の決定にESDと腹腔鏡手術の接点があると考える.治療方針決定に際して,当院では適応拡大病変に対して,患者にまず,われわれ内科から外科切除が標準治療であること,リンパ節転移のリスクは過去のデータからは適応病変と変わりないことを説明し,さらに外科医とも面談していただき,判断していただいている.ESDを施行後,追加切除が必要となった場合には,病理組織結果により外科医が術式を選択している.外科切除前に正確な病理診断がなされているわけであり,適切な判断が可能である.
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