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大腸癌研究会「内視鏡摘除の適応」プロジェクト 研究班の結果について
多田(司会) 大腸癌の内視鏡治療の適応・限界を考える場合に,癌の垂直浸潤距離が話題になっています.大腸癌研究会をはじめ,いろいろなところで1,000μmを基準にしよう,となっています.どのような項目に注目すれば内視鏡治療の適応の分岐点である1,000μmの診断が可能なのでしょうか.大腸癌研究会の中でも,「内視鏡摘除の適応」というプロジェクト研究班をつくりまして,Table 1の7名の先生方でこの方面の話題を検討してきました.2年間にわたる討議の結果,一定の指標に到達しましたので,「胃と腸」誌40巻13号(1855-1858頁)に「トピックス」として斉藤先生に発表していただいています.この研究の過程で非常に示唆に富む意見が出てきました.超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography;EUS)とか,あるいは拡大内視鏡を使えば浸潤距離はわかるだろう,と言われていますが,一般の多くの内視鏡医はこれらのツールを持っていません,あるいはそれを使って臨床に応用する時間がないという制約があります.そこで通常内視鏡だけで1,000μmの診断ができないか,ということを追求してきました.このあたりの経過についてまず斉藤先生からご説明いただきたいと思います.
斉藤 Table 2にありますように,研究班の目標は,通常内視鏡のみで内視鏡摘除を行っていいか,外科手術を行うべきか,という点を明らかにすることを目的にしております.拡大内視鏡や,EUSは用いないということです.やり方ですが,Table 1の各委員から,sm浸潤距離が明らかなsm癌30例,隆起型15例,表面型15例を提供していただきまして,各委員に自施設以外の症例について前向きに診断していただきました(Table 3).1,000μm未満か,1,000μm以上か,そしてどのような所見が出ているか,ということについて前向きに検討しました(Fig. 1).180病変の内訳は,1,000μm未満が180病変中43病変で23.9%,1,000μm以上が137病変,76.1%ということで,1,000μm以上が多くなっています.症例にはm癌は含まれておりませんので,どうしても1,000μm以上のsm癌が多くなっており,症例に多少のバイアスがかかっています.Fig. 2が最終的な結果です.正診率は74.7±3.6%です.誤診が25%程度ありますが,浅読みで誤診したものが16.3%,深読みで誤診したものが9%程度でした.施設ごとの正診率をお示しします(Fig. 3).施設間にばらつきの少ない良い成績と思っています.ただし,後で味岡先生からご指摘があるかもしれませんが,症例の76%が1,000μm以上ですから,すべてを1,000μm以上と答えると正診率は76%になるということで,ここが問題かもしれません.大きさ別では,大きさごとに正診率に有意差はありませんでした.また一般的に,隆起型のほうが正診率が低く,表面型のほうが正診率は高いのではないか,と検討前には考えていたのですが,興味深いことに今回の検討では,肉眼型別の正診率に有意差は認めませんでした.浸潤距離別にみると(Fig. 4),3,500μm以上浸潤しているsm癌では9割方は正診できております.一方,500μm以下や500~1,500μmぐらいの1,000μmを挟んだところの診断率が低い.やはりこのあたりの正診が難しいということが明らかとなりました.所見の一致率を検討してみたのですが(Table 4),Table中の青字の項目は,皆さんの所見の一致率が比較的高かった所見です.例えば腫瘍全体における所見としては,緊満所見がある,病変全体の硬さ,病変の凹凸不整がある,といった所見は拾い上げ方が比較的一致していたのですが,そのほかの二段隆起ですとか,広基性病変で立ち上がりが正常粘膜である,という所見は,一致率が低い.これは所見の拾い上げ方が人によって違うという問題点が明らかになった,ということです(Table 5).それから表面性状では,陥凹の有無.これは比較的高い一致率です.それから面状陥凹.深いか,浅いかという判断については比較的一致率が高い.ただし,褪色調に関してはほとんど一致していない結果でした.
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