iatrosの壺
聴診の重要性
山下 秀一
1
1宮崎市郡医師会病院内科
pp.526
発行日 1996年11月30日
Published Date 1996/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402905774
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救急の現場で身体所見をきちんと取ることがいかに重要であるか,ということを再認識させられた症例を紹介する.
患者は72歳の男性.肺気腫で以前当病院への入院歴があった.自宅で胸を押さえて苦しがり意識障害も認められるとのことで,救急隊より紹介となった.救急車にての来院時,意識は昏迷状態で,呼吸は浅く促迫し,ほとんど虫の息の状態であった.内科のスタッフの1人が気道を確保し,アンビューマスクで軽く押しながら酸素を投与したところ,サチュレーションモニターにて酸素飽和度90%以上を保ち得た.しかし,十分な換気が行われているとは考えられず,気管内挿管の準備がなされた.私は少し遅れて救急処置室に入り,ICUへベッドを確保する電話をしようとしたが,ふと気になって担当医に胸部聴診の所見を尋ねた.すると,まだ聴いていないとの答えだったので,挿管を止めつつ聴診したところ,左全肺野で呼吸音が著しく減弱していた.この時点で緊張性気胸を強く疑い,マスクでの軽いアシストのみで直ちに胸部X線写真を撮影した.予想どおり緊張性気胸であったので,胸部に小切開を加えペアンにて開胸し,緊張性気胸の状態を解除,そのうえで気管内挿管を施行した.もしそのまま挿管し,アンビューバッグにて加圧していたら,緊張性気胸の状態を一気に悪化させ心停止にいたったであろうことは想像に難くない.この患者の気胸は難治で,肺気腫のため手術も困難であったので,気管支鏡下に気管支塞栓術を施行し治癒せしめた.
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