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検診にて蛋白尿,腎不全を指摘され,原疾患の診断に苦慮した症例を紹介します.症例は51歳の女性で,平成5年の検診にて蛋白尿,高血圧,貧血,腎機能低下を指摘され当科受診し,同年11月4日当科入院.入院時,高血圧を認めましたが,血圧の左右差はなく,体表と血管雑音も聴取しませんでした.入院時検査では,血清クレアチニン2.5mg/dlと腎機能低下を認めました.腎生検にてIgA腎症と診断しました.入院時より37℃台の微熱が持続し,貧血,血沈の亢進,CRP高値を認め,原因検索のため,感染症,悪性疾患,膠原病などの検索を施行しましたが,微熱の原因は不明でありました.患者の退院希望強く,外来にて引き続き検索を行う予定にて12月8日退院.外来フォロー中レノグラムにて腎機能に左右差を認め,大動脈炎症候群を疑い,血管造影目的にて平成6年2月28日再入院.腹部大動脈造影で大動脈炎症候群と診断しました.
大動脈炎症候群は大動脈や肺動脈を中心とした主幹動脈に病変が局在することを特徴とし,病変が冠動脈や腎動脈にも及ぶことは稀ならず認められますが,一般的にはこれより末梢の動脈に及ぶことはないとされています.したがって初診時蛋白尿,腎機能低下を示す症例は稀と思われます.大動脈炎症候群にIgA腎症,巣状糸球体腎炎,アミロイド腎などの合併例が報告されていますが,本例でも腎糸球体にIgAの沈着を認め,大動脈炎症候群とIgA腎症の合併と考えられました.近年,抗好中球細胞質抗体(ANCA)が血管炎と密接な関係があることが明らかになってきています.しかしながら,ANCAが陽性となるのは細動脈から毛細血管までの小型血管炎であり,大型血管炎ではANCAは陰性であります.したがって,大動脈炎症候群の診断には臨床症状および検査所見より大動脈炎症候群を疑い,血管造影にて確定診断をつけなければなりません.しかしながら,造影剤を使用する検査は腎不全患者には施行しにくく,本症例でも血管造影の施行について迷いましたが,最終的には血管造影にて確定診断を得ました.大動脈炎症候群や古典的多発性動脈炎はANCAなどの血液学的マーカーがなく,不明熱で診断に苦慮したときには疑ってみるべき疾患と思われます.この症例でも,もっと早くレノグラムを施行していれば,初回入院時に大動脈炎症候群と診断できたのではないかと思われ,紹介しました.
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