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Aequanimitasから平静の心へ
オスラー博士(Sir William Osler)の言葉と精神に強烈なインスピレーションを受け,その教育への情熱を受け継いだ日野原重明先生は,『Aequanimitas』を日本語に翻訳することを決意した.そして,同書の第3版から15篇を選び,さらに米国オスラー協会会員のKeynesがまとめたオスラー博士の講演集『Selected Writings of Sir William Osler』1)から3篇を追加し,合計18篇から成る『平静の心』が誕生した2).追加されたのは,オスラー博士が終生座右に置いた愛読書とその著者を紹介した「Sir Thomas Browne(トマス・ブラウン卿)」,医学生へのメッセージとして「Aequanimitas」と双璧を成す1913年4月20日のエール大学における講演「A way of Life(生き方)」,そして,オスラー博士の最後の講演となった1919年5月の英国古典学会の会長講演であり,オスラー博士の思想の統括と言うべき医学のサイエンスとアート論“Medicine is an art based on science”を格調高い文章で纏めた「The Old Humanities and the New Science(古き人文学と新しい科学)」だ.
『平静の心』の出版は単なる翻訳作業ではなく,10年もの歳月を要した情熱そのものだった.オスラー博士の講演・記述にはギリシャ・ローマの古典,旧約・新約聖書,中世〜近世にわたる欧米の文学や哲学,シェイクスピアの作品などからの引用がたびたび登場していた.こうした日本人には馴染みの薄い背景知識や出典を把握するために,日野原先生は英米文学に詳しい聖路加看護大学(現・聖路加国際大学)の仁木久恵教授と共訳を進め,オックスフォード大学のボドリアン図書館やマギル大学医学部のオスラー図書館にも足を運んだ.その過程は本誌『medicina』での日野原先生の長期連載「オスラー博士の生涯」(1972年8月号〜1982年11月号まで,全112回)でも紹介されている.例えば,エッセイ「Aequanimitas」は本連載の第80回で初めて日本語に翻訳され,当初,“心の平静”と訳されていた3).
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