増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集
説明・回答にまつわるエトセトラ
伝える力
大野 毎子
1
1唐津市民病院きたはた
pp.1789
発行日 2023年10月10日
Published Date 2023/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402229171
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師長の眼差し
研修医1年目に,病棟で入院患者の家族に病状説明を行った.指導医と事前に打ち合わせ,患者さんの経過,診断,治療,今後の見込みなどを説明した.私は面接を終え,過不足なく説明できたと思っていた.しかし,それを見ていた看護師長が私に笑顔で声をかけてくれた.「先生の説明は,立て板に水なんですよね.」私が説明の際に,早口になっており,患者家族は説明が腑に落ちず,置いてけぼりになっていることをしっかり教えてくれた.このフィードバックは卒後30年目を迎えた今も心に残っている.
その後から,内容だけでなく伝え方を考えるようになった.それには,話す環境のこと,また,冒頭は来所への謝意の表明,自分や同席者の紹介,最後はまとめを入れるというような話の進め方のこと,句読点を意識して話す,強調するときは相手の目を見る,紙に文字や図を書いて説明するなどの話し方の工夫が含まれる1).最後はまとめをしたあと「質問やご心配なことはないですか?」といって相手の言葉を待つ.話し方では,研修医のころは無言の時間をうまく使えなかった.今はゆっくり話して間を置くようにしている.このほうが一度に多くの情報を提供するより,伝わるという実感がある.「間」は患者や家族が聞いたことを消化する時間でもあり,それぞれが自分の意見をまとめている貴重な時間でもある.あれ以降,私の面接では当時の師長の代わりにもう一人の自分が,自分の面接を見ており,相手に伝わったかどうかを点検している.
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