- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
私がシニアレジデントだった頃の話である.初期臨床研修を無事に終えて,当時は,基本領域はおろか,専門研修制度すら存在しなかった「総合診療」の道に進むことを選択した.自分はもともと臨床推論が好きで,それは今思い返せば,幼い頃に学校の図書室で読み漁ったシャーロック・ホームズの影響なのかもしれない.臨床推論を駆使して,患者の診断に迫ることに強い魅力を感じて,自分には総合診療しかないと思った.
母校のシニアレジデントになって最初の衝撃は,「シニアレジデントは単独で検査のオーダーを出してはならない」という掟だった.臨床研修までは,病棟管理のための採血や画像のオーダーを行い,それをもとに指導医にコンサルテーションして,診療を進めることに慣れていた自分は唖然とした.勘のよい読者なら,この時点で私が言わんとしていることに気付いているかもしれない.この「鉄の掟」の裏にはあるメッセージが隠されていたのだ.検査をオーダーするにしても,その結果が病歴聴取や身体診察から得られた臨床情報をどれだけ変えるのか,あるいはどんな疾患を想起してそれに対して検査計画を組むのか,そこのロジックを明確にしなければ,どんな検査を行っても正しい診断に行き着けるほど甘くはなく,場合によっては大きなエラーを引き起こす可能性すらあるからだ.検査の前までにどこまで考えられるか,私はこのシニアレジデントの期間に大いに学ぶことができ,それが今自分自身の臨床推論能力につながっているのは間違いない.その指導体制や文化を築いてくださった本学の生坂政臣教授には日々恩義を感じ,それを自分が多くの学生,研修医,専攻医などに換言していかなければならないと強く思う毎日である.
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.