書評
—磯部光章 著—症候から診断・治療へ—循環器診療のロジックと全人的アプローチ
髙田 真二
1,2
1帝京大学麻酔科学講座
2帝京大学医学教育センター
pp.1387
発行日 2017年8月10日
Published Date 2017/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402225051
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筆者は医学部の卒前教育に長年関わっている.指数関数的に増加する医学知識の圧力の下で多くの試験を突破することに汲々とせざるをえない学生たちが,医学部入学当初の新鮮なモチベーションを維持しながら医師に必要な資質を修得し,プロフェッショナルへの階段を昇ってゆくのをどのように支えることができるのか,日々悩みつつ奮闘している.そんな筆者にとって非常に刺激的な一冊が現れた.
複数の大学で何度もベストティーチャー賞やベストプロフェッサー賞に輝いた磯部光章氏(東京医科歯科大学循環器内科主任教授=発行時)の手に成る本書は,循環器病学を網羅的に扱う教科書ではない.磯部氏が医学部2年生から6年生に実施してきた講義・演習における学生との対話をそのまま再現した誌上ライブ集である.「症候や疾患を覚えるのではなく,基礎的な病態生理や理論をもとにして個々の患者の問題を論理的に把握すること」を主眼に展開されたこれらのライブは,サイエンス(医学)とアート(医療)の融合が臨床医としての資質の源泉であるという氏の哲学の実践と,そのメッセージを惜しみなく学生に伝えようとする熱い心とがあって初めて可能になった.同時に本書は,「医学教育の国際標準化」に曝されその意義が軽視される傾向にある旧来型の座学の講義でも学生の思考力を引き出すことは可能であり,紙上の患者であっても共感的に患者のナラティブにアプローチすることは可能であることを実証している.大切なのは授業の形態ではなく,教員が学生に向きあう姿勢であることを再認識させられる.
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