講座 臨床ウイルス学・10
成人T細胞白血病のウイルス
小林 進
1
,
山本 直樹
1
1山口大学医学部・寄生体学教室
pp.1280-1285
発行日 1986年7月10日
Published Date 1986/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402220464
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成人T細胞白血病(Adult T-cell leukemia,ATL)は1977年に京都大学の高月(現・熊本大学医学部教授)らによって初めて独立疾患として報告された.これは主に日本の西南地方,九州に多く,地域偏在性のある独得の白血病リンパ腫である.ATLは成人,特に40歳台から60歳台が最も多く,白血病細胞の核は切れ込みや分葉の傾向があり,典型的なものでは花びら状に見える.白血病細胞はその名のようにT細胞,特にヘルパー/インデューサーの表面マーカーを保有する.患者の多くは発病すると急速に悪化の一途を辿り,衰弱が進み,最後には肺炎などを併発して死亡する.患者の約50%は半年以内に,残りのほとんども2年以内に死亡する,致命率の高い白血病である.
1980年と1981年には,それぞれ米国と日本でATL患者の末梢血からT細胞株が樹立され,今までに発見された動物のレトロウイルス(RNA型腫瘍ウイルス)のいずれとも異なるウイルスが分離された.これらのウイルス(後述のように後になり同一であることがわかった)はヒトの発癌性に直接関連することから直ちに多くのウイルス学者や血液学者の興味を引くところとなり,その病因論的研究や疫学的研究が一挙に進むことになった.その結果はこのウイルスがATLの直接的な原因であることを示すに十分なものであった.以下,ウイルスの発見に始まるこれまでの知見と,その後のATL研究の進展について述べてみたい.
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