一冊の本
「Multiple Myeloma」—(I. Snapper et al, Grune and Stratton, New York, 1953)
高月 清
1
1熊本大学医学部・第二内科
pp.361
発行日 1986年2月10日
Published Date 1986/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402220239
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五十余年もこの世を生きて来て,やっとわかったことだが,私はどうも人並みに感激したり熱中したりすることが乏しい人生を送ってきたようである.クールというのではなくてエネルギー不足なのだろうと思う.どの本を読んでも乱読のうちの一冊として通り過ぎて行く.「この一冊」と思いをこめて書いておられる諸先生のまねは私には到底できない相談なのである.また,たとえ感銘を受けた本があったとしても,文芸書や教養書の類をこういう場で紹介するスノビズムとは無縁でありたいという気もある.だから私は内容的に感銘を受けたという意味では全然なくて,ある事情で私の手許にある一冊の本について語ることとする.
その本というのが表題のI. Snapper et al:Multiple Myelomaである.この本は私が購入したのではないが,勝手に私の所有と決めて,今も書架にある.濃紺の布張りハードカバーの小冊子である.私は四年前まで京都大学に勤務していたが,昭和31年に京都大学ウイルス研究所が創設され,天野重安教授,東昇教授など錚々たる陣容で発足した.しかし建物はまだなく,各部門は医学部のあちこちに分散していた.そして私の後輩の一人が内科からウイルス研究所の病理部へ派遣されていたが,彼が研究室に所有者不明で誰も読みそうもない本があるといって持って来たのがこの本である.当時私は多発性骨髄腫を研究しはじめた時だったので大いに喜び,預ったのがそのまま現在に至っている.
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