今月の主題 下痢と腸疾患
下痢患者をみたらどうするか
輸入下痢症(旅行者下痢症)
滝上 正
1
Tadashi Takigami
1
1横浜船員保険病院
pp.1416-1417
発行日 1984年8月10日
Published Date 1984/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402219177
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定義,疫学
海外旅行者は年々増加の傾向にあり,最近1年間に日本に入国する邦人,外人は約500万人に達し,そのうち20%がWHOの指定したコレラ汚染地区からの帰国者,または来日者である.さらに,入国時,検疫所からの質問票に任意に下痢の申告をしたものは1万2千人(うちコレラ汚染地区からは8,000人)であるという.これらの数字の周辺ないしは背後に「輸入下痢症」の問題がひそんでいることになる.
ここで「旅行者下痢症」の定義を明らかにしておきたい.本症は「熱帯,亜熱帯地方の発展途上国において他国の旅行者が罹患する下痢症」のことで,現地土着の人は長年の間に免疫を獲得しているため発症しない.「輸入下痢症」も同義と解してよい.「輸入」という表現が妥当かどうかの問題はさておき,感覚的には前者は発展途上国に滞在中の既発症,後者は帰国後の発症に重点がおかれている感じを受ける.ただし,長期の疫学的見地からみたとき土着疾患,輸入疾患の別は決して絶対的なものではない.たとえば,現在わが国で梅毒を輸入感染症という人は誰もいないであろう.
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