天地人
マスコミの中の人間
越
pp.685
発行日 1981年4月10日
Published Date 1981/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402217136
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テレビの茶の間への侵入は,日本人の生活様式にも著しい変化をもたらした.老いも若きも映像の前に釘づけにされて,日本古来の家族の団欒まで奪いつつあるといわれる.
中にはいい番組も混っているが大抵はつまらないので,さて報道関係のみを見ることにしても,マスコミの影響が妙な方向に世相を誘導しているのではないかと疑いたくなる.親を金属バットで殴り殺し,悟として反省の色もない若者がいるかと思うと,海の彼方でピストルで射殺されたジョン・レノンを悼んで涙にかきくれ,真剣にその音楽に聞き入る多勢の若者達がいる.皮肉な見方をすると,彼らは肉親の死にそれほど深い嘆きを示しそうにもないし,音楽にそれほど深い理解をもっているとも考えられない.肉親や友人との心の絆は日日稀薄化されてゆくのに,直接に関係のない対象へと人々の心は奪われてゆくようである.
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