医師の眼・患者の眼
本邦初演
松岡 健平
1
1済生会中央病院内科
pp.310-312
発行日 1979年2月10日
Published Date 1979/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402215783
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アスピリンだけ出して退院させるとは……
「それにしてもさっきのハタハタの怒ったというか,落胆したというか」と,イノシシはラッシュアワーの終わった甲州街道を12年愛用したフォルクス・ワーゲンを駆って家路を急ぎながら思い浮かべた.というのは,62歳の女性で多発性筋炎の患者に,アスピリンだけ処方して退院させてしまったレジデントにハタハタは「しょうがないな,この間あれほど説明したのに…….もっと本を読め」と注意した.しかし,「アスピリンでも出して退院させとけよ」と指示したイノシシのことについては「どうしようもない,教科書に書いてあることさえ理解しようとしない」とつぶやいていた.
ハタハタはその患者にCoumadinを投与しておきたかったのである.患者は多発性筋炎の治療中,1年前,胸痛とともにショックになった.喀血はなかったが,胸部X線写真と肺シンチグラムから肺梗塞と診断した.そのとき,イノシシは「X線写真やシンチで出ていても,アンギオで出なけりゃなんともいえんさ,胸痛は神経痛だ.腓腸筋の圧痛は筋炎のためだよ,ショックはたぶんステロイドをやめたからだ」と話していた.患者はその後もときどき胸痛を訴えていたのであるが,2カ月前には遂に喀血して入院した.イノシシは肺梗塞を認めた.ハタハタは再び肺シンチのほかに,撰択的肺血管造影を行って,肺梗塞を確認したのであった.
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