私の失敗例・忘れられない患者
装甲心と肝硬変
星崎 東明
pp.1175
発行日 1976年8月10日
Published Date 1976/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402206721
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臨床医にとって病理解剖は,ちょうど裁判所の判決のようなもので,ときには予想外の結果が出て,冷汗をかくことがあるのは誰しも経験するところであろう.最近,私が経験した,このような症例のひとつを紹介する.
症例は,当時15歳の男子で,昭和39年5月の初診である.患者は小学校時代より,ときどき胸部X線上の異常を指摘されていたが,結核は否定されていた,ッ反応は中学3年のときに陽性とのことであった.昭和35年5月に,登山中,急に呼吸困難,冷汗をきたし,近医を受診したところ,腹水と肝腫大を指摘され,肝疾患の診断で,当院に紹介入院した,入院時,肝は右乳線上4横指触知し,腹水がみとあられた.胸部にはとくに所見なく,肝機能検査はBSP 25%であったが,その他特記すべき異常をみとめず,腹水は漏出液であった.利尿剤を投与して,腹水が一時消失した時期をみて,腹腔鏡下で肝生検を行った.組織所見は,肝の線維化がみられ,中等症の肝硬変とのことであった.若年者の肝硬変症とは珍しいと思いながら,経過を観察していたが,腹水は利尿剤の投与にもかかわらずしばしば貯溜し,一向に改善の傾向がみられなかった.家族には,肝硬変症で,腹水がたまっていることであるし,予後不良で,1〜2年の命であろうと告げた.
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