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質問 あまり進行していない時期における再生不良性貧血を疑わせる血液臨床検査データについてご教示ください.(富山市、K生)
答 再生不良性貧血は,骨髄の障害によって赤血球,白血球,栓球の3つともの血球の産生が低下するため末梢血液で汎血球減少を起こす病気です.したがって本症の診断の第一歩は末梢血液検査で汎血球減少を知ることです、しかし本症の血液像にはそれ以外には特徴が少なく,正色性正球性貧血,網赤血球数の減少(10×104/cmm以下),白血球像では白血球数の低下(5000/cmm以下)のほかに穎粒球の減少,つまりリンパ球の比率が高いこと(50%以上),好中球アルカリフォスファターゼ値が著しく高いこと(陽性率100%に近い)などがその所見としてあげられます.血小板数も減少し,多くの症例では3万/cmm以下の著明な減少を示します.骨髄穿刺による骨髄像では一般には低形成,すなわち有核細胞数は少なく,リンパ球の比率が高いのが特徴です.しかし穿刺部位によっては過形成像を呈する部位もあり,低形成が絶対的な所見とはいえません.本症の骨髄は全部びまん性に低形成になっている場合だけでなく,所々に過形成を呈する造血巣が島状に散在している場合も多いものと考えられています.血清鉄値は造血能が低下して,Hb合成に用いられないため高値(多くは200Ptg/dl以上)を,血清不飽和鉄結合能は低値 (多くは50μg/dl以下)を示しています.しかしその程度は造血能の障害度と過去の輸血による貯蔵鉄の量如何に左右されます.人体の造血能低下の程度を量的に把握するためには,放射性同位元素である59Feを血清鉄の追跡子として,Hb合成状態を観察するフェロカイネティクスを行なう必要があります.この方法で血清中の鉄が1日に何mg,Hb合成に用いられるかが計算されます、血清鉄消失率とは59Feの血清からの消失速度で,はじめの1/2になるまでの時間(T1/2)で表現します.正常造血能を持った人ではT1/2は1〜2時間ぐらいですが,本症例では3〜6時間というふうに著明に延長します.それだけ血清鉄の流れが遅いわけです.血清鉄は流れる先は骨髄の赤芽球に摂られHbに合成されるか,または肝臓,脾臓などの組織鉄となるかの2つに分けられます.このうちHbに合成された59Feは赤血球中に含まれて血液中に出てきますので,これを59Fe赤血球利用率といいます.血清鉄のうちHbに合成される割合は,正常造血では80〜100%ですが,本症のように造血能が低下するとその程度によって50%とか20%と力著しく低値を示します.残りは組編鉄として沈着してしまいます、血津鉄の流速に血清鉄量を掛けたものに血清鉄の流量になり,それに59F利用率を掛けたものはHbに合成される量になります、赤血球鉄交替葬といいますが,正常造血では0、31.0mg/kg体重/日ぐらいで,体重60kgの人なら1日18〜60mgの鉄がHbに合成されることになりますが,再生不良性貧血症例では,0.3mg/kg/日以下程度に応じて低値を示します.これらのdataによって造血能の低下の程度が数量的に表現されます.
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