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再生不良性貧血とは
ヒトの赤血球,白血球,血小板などの血球は,それまで造血の主役を演じていた肝脾と変わり胎外に出ると,そのほとんどが骨髄で生成され,それぞれの生理機能を営むべく末梢血を流走循環して,それぞれの役目を終えて寿命を全うし死滅していくという回転をしている.現在これらの血球は多能性幹細胞と呼ばれる一種の造血母細胞から発育分化していくことが明らかにされた.再生不良性貧血(以下再不貧と略す)とは造血幹細胞(上述の多能性幹細胞からまず骨髄系幹細胞とリンパ系幹細胞とに分化し,前者から赤芽球系幹細胞,顆粒球系幹細胞,血小板系幹細胞へと細分化していくことが認められている)の種々の段階のものが障害を被り,中でも赤芽球系,顆粒球系,骨髄系幹細胞の発育成熟が阻害される結果,末梢血液中の汎血球減少(赤血球,白血球,血小板のいずれもが)を招来する疾患であり,骨髄の造血は低形成ないし無形成に陥る.それぞれの生理機能の欠陥脱落により強度の貧血,発熱,出血を主徴とし,血液疾患の中では予後不良の最悪の種類に入る重篤な疾患の一つである.
本再不貧は1888年Ehrlichによって貧血を呈し,子宮出血で死亡した症例を以ってその第1例とされている.その後今日に至るまで多くの学者により再不貧の本態,定義などについて論述され,その定義も紆余曲折を経て今日に及んでいるが,中でも悪性貧血との関連と白血病との異同が最も問題であった.ビタミンB12の発見により悪性貧血がB12欠乏に由来することで再不貧とは明確な一線が画されたが,白血病との境界については今日必ずしも十分に納得すべき線が引かれたものでない.特に白血病の中で非定型性白血病と言われるものと再不貧の中の非定型な病像を持つものとの鑑別は困難な場合が現在でも存在する.しかし現時点では再不貧は先述の骨髄低形成に基づいて汎血球減少を来すべき原疾患のないものを総称しており,一応臨床血液学的な意味合いで捕えられている.幹細胞の検査法が更に進歩すればより具体的な定義に近いものが作られる可能性がある.
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