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はじめに
慢性アルコール中毒,あるいは大酒家にみられる種々の臓器障害の中でも,肝障害(脂肪肝,アルコール性肝炎,肝硬変症)はその頻度からみても,疾患の重篤度からみても,日常臨床上もっとも重要な疾患のひとつである.アメリカの最近の統計によれば,肝硬変症は青壮年層の死因の4位を占めており,その3人のうち2人は慢性アルコール中毒者だといわれている.過去の統計をみても第一次世界大戦中のフランスにおけるワインの配給制や,アメリカの禁酒時代には,肝硬変症による死亡率が激減しており,その後アルコール飲料が自由に入手可能になると再び肝硬変症による死亡率が上昇する事実1)はエチルアルコール(以下アルコール)と肝疾患の発症とがきわめて高い相関にあることを物語っている.
さて,わが国においてはどうであろうか?従来,アルコール性肝疾患の頻度はわが国では低いとされていた.しかし近年,生活水準の向上,生活様式の欧米化,社会構造の複雑化にともない,アルコール摂取量の著明な増加をみており,アルコール中毒数も増加し,1970年現在で約100万人と推定されている2).さらに,わが国のアルコール性肝障害の頻度に関しては第7回日本肝臓学会西部会における高田ら3)の全国集計報告によると,脂肪肝の頻度には著変はないが全肝炎および肝硬変中のアルコール性肝炎および肝硬変の比率は年々増加傾向を示し,昭和36年には全肝硬変中でアルコール性肝硬変の占める比率は約10%であったが,昭和46年には約30%に達している(図1).このような増加傾向は今後ますます助長されることが予想され,アルコール性肝障害の予防および治療は,社会的にも医学的にも極めて重要な目標となる.
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