Editorial
肝臓病学の展開
高橋 忠雄
1
1慈恵医大・内科
pp.1699
発行日 1972年8月10日
Published Date 1972/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402204413
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今世紀の後半に入ってからの,肝臓病学でのもっとも目覚ましい進歩というべきものは,肝生検の普及と,電顕による肝細胞超微形態の解明とがまずあげられる.この両者はしばしば併せ行なわれ,それによって多くの新知見が得られつつある.さらに超遠心法による肝細胞の各organelleの分離と,酵素学の応用によって,機能と形態が密接に結びつけられたことも,大きな収穫というべきであろう.これらと,ラベルした物質の入手の容易になったこととによって,肝の代謝機能についての知識は飛躍的にその豊かさを増した.
肝疾患の診断も,種々の臨床検査法ことに血清酵素活性測定,脾内圧測定および脾門脈造影,肝動静脈造影など,および肝シンチスキャンなどが,新たな武器として加えられ,その正確さを増した.しかし,肝疾患の治療の面に眼を移すと,これまでの研究の成果は必ずしも満足すべきものとはいえない.そのうちもっとも緊急に解決されなくてはならない問題は,重症肝障害,ことに劇症肝炎とportal-systemic encephalopathyのより確実,合理的な治療法の開発である,今日行なわれている治療法は,前者に対する交換輸血,体外灌流,交叉循環など,後者に対する抗生物質,ステロイド,ラクチュロースなどの効果にも限界はあり,わずかの希望しかつなぎ得ないのが実状である.
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