治療のポイント
心筋硬塞後の安静と運動
土肥 豊
1,2
1七沢病院
2昭和大内科
pp.1195-1198
発行日 1971年7月10日
Published Date 1971/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402203758
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安静・運動の判断に迷う実情
「運動こそ最良の冠拡張剤である.」という名言ほど虚血性心疾患のリハビリテーションの本質を的確にあらわした言葉はない.およそ20年ほど前,P. D. White1),L. B. Newman2)らによって,心筋硬塞の治療にあたっての早期運動療法の効能が提唱されて以来,臨床的ならびに実験的成績の多くはこの考えを裏づけている.歴史的には,前記のDr. Whiteが心筋硬塞で倒れた当時のアメリカ大統領アイゼンハウアーを,積極的運動療法によって見事にカムバックさせた話はあまりにも有名である.英国のNational necropsy surveyによるMorris(1958)の報告3)でも,肉体労働従事者には虚血性心疾患の発生率が少ないことが認められている.このように,身体運動が心筋硬塞を含む冠動脈疾患の発生予防および発症後の回復にとって有用な好結果をもたらすことは,すでに定説となったと考えられる.
しかし,一方において筆者らは,初期の安静が十分に守られなかったために症状の改善が非常におくれたり,思わぬ併発症をおこしたりする症例も日常ときとして経験している.したがって1人の心筋硬塞の患者を前にした場合,安静と運動との功罪をどのようにして取捨選択してゆくかが臨床家にとっての大きな悩みになるわけである.筆者自身,経験も浅く,新しい硬塞の患者を目の前にするたびにこの悩みをひしひしと感ずるのが実情であるが,いくつかの文献をもとにして筆者なりにまとめた,ひとつの原則のようなものを記して責を果たしたいと思う.
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