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大気圧よりも高い気圧環境のなかに患者を収容し,高濃度の酸素を投与することにより症状の改善を図ろうとする治療法を高圧酸素療法と定義することができる.高圧医学の発達の歴史は新しいものではなく,1662年,イギリスの生理学者Henshawは肺疾患の治療を目的として高圧室を作り,急性例は高圧で,慢性例は低圧で治療した.1830年代,フランス人によってle bain d'air compriméによる治療法として多くの臨床報告がなされ,1878年,Paul Bertにより高圧生理学の基礎が完成され,また彼は神経系に対し高圧酸素が毒性をもつことを実証した.
高圧酸素を治療に応用したのは,1887年,Valenzvelaが肺炎の治療に本法を応用したことに始まる.1895年Haldaneは高圧酸素がCO中毒を防止することを実験的に証明したが,適用の多くが経験的なものであったため,流行は廃れ,さらに酸素中毒に関する生理学的・薬理学的な研究が進むにしたがい,これを治療に応用しようという機運も生まれなかったが,1955年Churchill-DavidsonはGray(1959)の発表したマウスのEhrlich腹水腫瘍細胞の放射線感受性がPO20-40mmHgの間でほぼ2.5倍に上昇するという実験を根拠に臨床応用し,Boeremaは1956年,実験的に心臓外科で使用できる可能性とガス壊疽に対する使用経験,1960年SmithらはCO中毒に使川して著効をみたなどの報告があいつぎ,これらの業績により高気圧下での酸素吸入療法は再び脚光を浴び,再評価され,本法の適応と治療の限界もほぼ定まって来た感があり,わが国でも一般臨床に急速にとり入れられつつあるのが現状である.
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