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脱神経とこれからの回復過程
1つのmotor unitは1個の神経細胞とこれから伸びる突起,それに所属する数十ないし数百の筋線維からなっている.神経細胞から発したインパルスは,このたくさんの筋線維をほぼ同時に興奮させるので,筋電図は比較的単純な波形であって,2相性,3相性,4相性程度のものが多い.この何相性という表現は,最初上向,つぎに下向,つぎに上向というような波形の構成のときは3相性と名づけることにする.末梢神経の病気または外傷などの場合,1本の神経線維が分枝するいく組かの筋線維グループ同士の間で興奮の伝達に時間的なズレがあると,波形は複雑になり,図1(c)に示すような多相性の波がみられるので,これをpolyphasic potentialと名づける.あるいはcomplex NMU voltageとよぶこともある.
さて,神経に対する傷害がもっと激しくなると,このような筋へのインパルス伝達のムラよりももっと重篤な故障すなわち連絡の遮断が起こる.この場合は,器質的と機能的とのちがいはあっても,神経と筋との連絡は絶たれている.現実には末梢神経炎ないしは末梢ニューロパチー,神経切断,脊髄前柱細胞の疾患などでこのような脱神経状態が成立しているわけである性このような病的状態が成立してから2ないし3週間たつと,神経支配を断たれた筋線維には興奮性の変化が起こり,流血中の成分(アセチルコリン様の脱分極性物質)によって興奮活動を起こすので意志的な収縮とは無関係な自発的活動が生じる.この場合のスパイクは振幅は100μV前後,持続時間(スパイク幅)は1-2ミリ秒程度のもので,図1(a)のような形を示し,fibrillation potentialと名づけられている.このスパイクに対する筋肉の動きは皮膚の上からはみることができず,筋膜を除いて直接に筋組織をみたときのみ認められるものである.同じく脱神経時の筋でみられる安静時のスパイクにpositive sharpwaveとよばれるものがあるが,これは図1(b)のように一方向に鋭く触れ,反対方向に長く続く動きをもっているもので,振幅は100μVから1mVくらいである.この波に相当する筋収縮も皮膚の上からは認めることができない.このような波形は,脱神経筋線維の同期的活動,あるいは変性筋線維を針電極が損傷することによって起こるなどと想像されているが,その出現の意味はfibrillationと同じで,脱神経変性の証拠と考えられている.
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